暖かな家の中でも気になる「冷え性」、あなたの冷え方と対応食材は?

季節にかかわらず、気温が下がると手足の先やお腹、腰などが冷えると感じる「冷え性」は、とりわけ女性に多い体の悩みです。また、それが原因でさまざまな体の不調を引き起こすとも考えられています。そこで今回は、冷え性の原因やその改善方法について、ふたば漢方薬局の代表薬剤師(就実大学薬学部特任教授)の緋田哲治さんに、薬剤師の立場から教えていただきました。

東洋医学について知っておきたいこと

漢方とは、「中国の伝統医学を基に、日本で独自に発展した医学」だといえます。紀元5世紀から6世紀に中国で行われていた医学が日本へ導入され、江戸時代前期まで行われていました。ところが、江戸時代中期に蘭方(オランダ医学)が日本に入ってきて以降、もともとの中国を起源とした医学と区別するために「漢方」「漢方医学」と名付けられたのです。そして明治時代には、漢方は、西洋医学と区別するために「東洋医学」とも呼ばれるようになりました。

漢方薬ってどんなもの?

東洋医学では、食事が最も大事だと考えられています。食事をきちんと整えれば、治療薬を使わないでも体のケアは十分にできるという考え方が基本にあるのです。その上で、不幸にもバランスを崩してしまった場合には、伝統的な診断方法により、個々の患者に適した漢方薬によって治療を行います。漢方薬は、草根木皮などの天然物を原料として配合し、煎じ薬や丸薬、粉薬の形状にした薬物で「食事に一番近いクスリ」であるといわれています。東洋医学で冷え性をあつかう場合は、食事も漢方薬も、冷えのタイプに適したものを選ぶことが重要と考えられています。

東洋医学の観点から考える「冷え」とは?

さて、「冷え性」というのは、手足や腹部など、室内を温めても体のどこかに冷えを感じ、それがもとで不快や苦痛を感じている状態をいいます。「冷え」自体は病気ではありませんが、放っておくと臓器のはたらきが低下し、頭痛、肩こり、疲労感、腰痛、関節痛、生理痛、胃腸不調、風邪を引きやすいなど、全身のさまざまな不調につながる可能性があります。ひと口に「冷え」といっても、その原因は一人ひとり違います。
また、冷え症と寒がりは、似ているようですが実はまったく違うものだといわれています。
「寒がり」とは、「寒いのが苦手で、少しの寒さでも大きな寒さを感じる、寒さに過敏な人のこと」。このような人は、厚着をしたり、暖かい場所で過ごしたりするなど、体を温めることで治まります。一方「冷え性」は、体全体は寒さを感じないのに、部分的に冷える症状をいいます。こういった冷え性の場合は、いくら体を温めても手や足などの冷えた一部分はなかなか温まりません。部分的な冷えの症状がとても強く、場合によっては痛み、のぼせなどの不調などを伴うこともあります。

“寒がり”と“冷え性”はまったく別のもの

冷えをもたらしている原因を知って積極的に対処法を行うことで、その症状は少しずつ改善されていきます。いくつかある自分の冷えの原因(タイプ)を知って、漢方の知恵で体を温める“温活”をしましょう。

あなたの冷え方は? 知っておきたい冷え性のタイプ

東洋医学では、冷えの原因によって大まかに次の5種類のタイプに分類することができます。そしてそれぞれについて、冷えの特徴や、健康であるために望ましい食事(食養生)と、処方される漢方薬が異なります。ここでは、そのタイプ別に解説します(複数のタイプが重なることもあります)。

1.熱の産生が少ない「腎虚(じんきょ)」タイプ
熱を産生する腎の働きが弱くなる「腎虚」が、冷えの原因だとされています。全身に冷えを感じ、特に中心部分が冷えます。高齢者に多い冷え性です。シナモン・ニラ・羊肉・牛肉・黒豆・黒ゴマ・ヤマイモなどをとるとよいでしょう。

食養生には牛肉や黒ゴマなどがおすすめ

2.胃腸が虚弱なタイプ「脾虚(ひきょ)」タイプ
食べ物からエネルギーを作り出し、体を温める働きをする「脾」が弱っている「脾虚」は、特に腹部に冷えを感じることが多いです。また、胃腸虚弱で食欲不振や疲れを感じやすいことも特徴です。適度な運動、胃腸に負担をかけない規則的な食事、冷たいものの取りすぎを控えるなどの対策が適しています。摂取したほうがよい食材は、ショウガ・ネギ・シナモン(香辛料や薬味)・紅茶・大豆製品・きのこ類などです。

ショウガや紅茶、きのこ類などを食生活に取り入れて

3.熱を体のすみずみに運ぶ器が少ない「血虚(けっきょ)」タイプ
体の中心から作られた熱を運ぶのが「血(けつ)」。この血が足りない状態が「血虚」で、末端の冷えが顕著です。顔色が悪く、皮膚が乾燥しやすい、髪の毛にツヤがないといった症状を伴います。これらのタイプの人は、適度な運動、適度な睡眠を心がけること、胃腸に負担をかけない規則的な食事をとること、冷たいもののとりすぎを控えることなどの対策が適しています。できればレバー・鶏肉・レーズン・プルーン・黒豆・黒ゴマなどを多くとるようにしましょう。

食養生には鶏肉や黒豆などがおすすめ

4.熱を運ぶ器の流れが悪い「瘀血(おけつ)」タイプ
熱を運ぶ器である血(けつ)の流れが悪いため体の隅々まで温まらないタイプ。手足など末端が冷えやすく、しびれることもあります。手足は冷えるのに顔はほてるといった「冷えのぼせ」や痛み、しびれがあることも特徴です。また、シミができやすく、月経痛が強い、経血に塊が混じるなどの症状を伴うこともあります。このタイプは、運動をすることで症状の改善が期待できます。食材としては、紅花・ヨモギ・ラッキョウ・玉ネギ・イワシ・サバなど(血液サラサラ食材)を多くとることをおすすめします。

玉ねぎやイワシなど血液サラサラ効果のあるものを

5.熱を運ぶ器の動きをコントロールする力が乱れる「気滞(きたい)」タイプ
ストレスで冷えが強くなったり、のぼせたりすることもあります。熱を運ぶ推進力が不調になるため、熱の偏りが起こりやすい状態になります。「冷えのぼせ」が特徴です。また、イライラ感や不眠、月経困難なども伴いやすく、ストレスが関わることもあるので、気分を軽く持つとよいでしょう。ミント・ジャスミン・春菊・三つ葉・シソなど(香りのある食材)を意識してとるとよいでしょう。

春菊や三つ葉など香りのある食材を取り入れて

日常の暮らしのなかでできる「冷え性」対策

体を温めるために、シャワーだけではなくゆっくりと入浴をしましょう。そして、特に冬になるとカイロや湯たんぽを上手に使って、特に腰まわりを温めるようにし、過度にならない範囲で、体を動かす習慣を持つことも大切です。

湯たんぽなども体を温めるのにおすすめ
適度に体を動かしましょう

血行を妨げないためにも、体を締め付けるような服装ではなく、重ね着などをして、保温のための空気の層をつくるよう心がけます。そして、食事は最も大切です。冷えのタイプごとに、食べたほうが良い食材を積極的にとり、冷たい飲食は控えめに。朝はスープや味噌汁で温朝食をするだけでもかなり違います。

ゆったりとした服装で保温効果をアップ

まずは自分の冷えのタイプを知ることが重要です。それに応じた日常生活を送ること、タイプに適した食生活をすることで、体内の熱や血液や水の巡りを良くするよう意識して努めましょう。その上で、つらい症状が続くようであれば、漢方薬も試してみることをおすすめします。

これまで述べたように、「冷え性」というのは、いろいろな不調の前段階であって、冷え性が原因となりさまざまな体の変化が出る可能性があります。薬の選択については、近くの漢方薬局や薬剤師に相談することをおすすめします。また、病気の診断や治療を希望する場合は、漢方を積極的に採用している医療機関を受診するといいでしょう。

取材元:ふたば漢方薬局岡山店代表薬剤師、就実大学薬学部特任教授 緋田 哲治さん

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