生活の質に関わる歯周病対策、いまできる「口腔ケア」のススメ

“口腔ケア”とは、歯ブラシやデンタルフロスなどを用いて口内を清潔に保つことをいいますが、それらは単に虫歯や口臭予防のためのものと思っている人も少なくないのでは? しかし実は、最近の研究において、口の中を清潔に保つことにより心臓病や糖尿病、認知症予防にもつながることが証明されています。そこで今回は、岡山市にある「みつ星歯科クリニック」の藤井武院長に、口腔トラブルやその予防法など、口腔ケアの大切さについてお話を伺いました。

虫歯だけじゃない! お口のトラブル

口腔トラブルと聞いて、誰もが真っ先に思い浮かべるのは虫歯ではないでしょうか。実際は、そのほかにも多くの口腔トラブルが存在します。例えば、口の中の細菌感染から引き起こされる口内炎、唾液の減少による口内の乾燥、不適切なブラッシングによる粘膜の傷み、エナメル質のはがれからくる知覚過敏などなど…。なかでも、特に注意したいのがあらゆる全身疾患と関連している歯周病です。

歯周病は”万病のもと”!?

全身の病を引き起こす歯周病

“歯周病”とは、細菌の感染から引き起こされる歯肉の炎症性疾患のことで、症状が進行すると歯を支えている土台(歯槽骨)が溶けて動くようになり、最終的には歯が抜け落ちてしまう病気です。その要因は、加齢による歯茎下がりや睡眠時の歯ぎしり、ストレスなど様々ですが、多くの場合、歯と歯肉のすき間(歯周ポケット)の清掃が行き届いていないことが挙げられます。歯周ポケットにたまった歯垢(プラーク)には細菌が無数に含まれており、それが原因となって炎症が起こり歯周病を発症します。

歯周病にかかると、何百億個ともいわれている口内細菌が、口の中の血管から入り込み血液を介して全身を巡り臓器内にすみ着きます。その結果、動脈硬化や心疾患、脳卒中、糖尿病などを引き起こす要因となります。また妊婦の場合は、早産や低体重児出産につながることも分かってきました。さらに、歯を失うことで、噛むことによる脳への刺激が減少し、認知症の一因になることも認められています。

歯周病が心疾患や脳卒中など思わぬ病気につながることも

こんな人は要注意! すぐに歯医者で受診を

歯を失うだけでなく、深刻な病を引き起こす要因となる歯周病ですが、症状が悪化するまで見逃してしまう理由は、虫歯のような“傷み”がないこと。自覚症状がないままに進行する病気だからです。ここでは、早期に気付けるセルフチェック法をご紹介します。

・歯茎が赤い、腫れがある
・口臭が気になる
・歯が長くなった気がする
・歯と歯の間に食べ物が詰まりやすい
・歯みがきすると血が出る
・歯が浮いたような感じがする
・朝起きると口の中がネバネバしている
・歯茎がかゆい

上記の項目にいくつか該当する場合は、知らず知らずのうちに歯周病が進行している可能性があります。歯科医での早めの受診をおすすめします。

これからはじめる予防法

全身疾患の要因となる恐ろしい歯周病ですが、虫歯同様に歯みがきや生活習慣で防げる病です。正しい予防法を行い理想の口内環境を維持しましょう。

●夜の歯みがきが重要。一本一本ていねいに
毎食後に歯みがきを行うのが基本ですが、最も大切なのが就寝前、夜の歯みがきです。就寝時は殺菌効果を持つ唾液の分泌が減少し、爆発的に細菌が増殖します。そのため、寝る前の歯みがきが最も重要となります。

正しい歯みがき方法を習慣づけましょう

●唾液は最強の味方。唾液を出す舌体操
何百億個もの細菌が常在する口の中を、常に中性に保ち、細菌の繁殖を抑える働きを担っているのが唾液です。残念ながら唾液の分泌量は加齢とともに減少します。その結果、口腔の自浄作用が衰え、歯周病だけでなく、食べ物が飲み込みにくくなり誤嚥性肺炎を引き起こす一因にもなっています。唾液分泌を促す体操を習慣づけるとよいでしょう。

<唾液の分泌を促す舌の体操>
・あ・い・う・べー と言いながら、舌と唇を大きく動かす運動です。
「あ」は口を大きくあけ、「い」は口を真横に広げるように、「う」は唇をしっかりすぼめ、「べー」では舌を突き出すようなイメージで。一日5回程度行います。
・舌で頬や唇の内側をなぞるように動かす(舌回し運動)。片側20回ずつ計40回を一日1回行います。

<唾液腺マッサージ>
耳の下からあごにかけて唾液腺は3ヶ所あります。それらをやさしくマッサージし唾液分泌を促します。
・耳下腺:耳たぶのやや前方、上奥歯の辺りのほほに手をあて、やさしく押します。
・顎下腺:エラの内側の柔らかい部分に指をあて、あご先にかけて押しながら指をスライドさせます。
・舌下腺:あご先の内側に親指をあて、グーッと押し上げます。

●飴やジュースは危険! 
口内環境は食事のたびに酸性へと傾きます。口の中が酸性になると、歯のミネラル分が溶け出し虫歯リスクが高まります。唾液には、口内環境に理想的な中性へと戻す作用があるのですが、いつまでもダラダラと食事をしていたり、間食をしたりすることで、唾液による中和作用を妨げてしまいます。また、意外な盲点といえるのがジュース。ジュースには多量の砂糖が含まれており、食事をしている自覚が希薄な割に、口内への影響はとても大きいので要注意です。外出先ではマウスウォッシュなどを上手く活用して清潔な状態を保つように心掛けましょう。

まとめ

世界で最も感染者の多い病気としてギネスに登録されている歯周病。日本の成人の実に80%が感染しているといわれています。平均寿命が80歳を超えた今、12、3歳で生え変わった永久歯をいかに長く、丈夫に保つかということは、QOL(Quality of life:生活の質)とも密接に関連する重大課題となっています。残念ながら、日本人の多くは虫歯をはじめ何らかのトラブルが起こってから歯科を受診するという人がほとんどです。口腔トラブルが招く危険性を知り、日々の口腔ケアを怠らないことはもちろん、かかりつけの歯科をもち、定期健診を行うなど、トラブルを未然に防ぐことを心掛けましょう。

<取材協力>
みつ星歯科クリニック
藤井 武 院長
愛知学院大学歯学部卒。「人生の最後まで、好きなものを自身の歯で食べられるように」を理念に掲げ、患者一人ひとりに寄り添った歯科医療を行っている。

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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