通勤電車の暖房事情、路線によって異なる工夫とは?

寒い時期になると電車内でつけられる暖房。

しかし、外気が直接吹き込まない地下鉄では、車内の温度が高いために冬の時期でも暖房がついていない場合もあります。また、今では少し想像しづらいですが、山手線にはかつて床暖房が装備されていたことも。時代や状況に応じて変化を続けている、電車と暖房のさまざまな事例を紹介いたします。

列車における暖房の歴史

電車の暖房といえば、座席下の電気ヒーターを思い浮かべる人も多いのでは

蒸気機関車が主流であった明治時代初期。客車の暖房には、湯たんぽやダルマストーブが使われていたようです。しかし、火傷や火災などの危険性が高いことから、機関車から供給される蒸気で客車内を暖める蒸気暖房へと徐々に切り替わりました。

昭和に入り、電気機関車がメインになると、電気機関車に暖房用電源を搭載した電気暖房で客車内を暖めるように。戦後には、編成内に電源車を連結する集中電源方式、床下にディーゼル発電機を装備する分散電源方式が登場しました。
現在の電車においては、座席下の電気ヒーターを使って暖房する方法が一般的です。

地下鉄の暖房

それでは、現在の地下鉄の暖房がどのようになっているのか、3つの例を挙げて説明いたします。

都営地下鉄大江戸線

都営地下鉄大江戸線は、車両に暖房の装置はついているものの、原則として使用していません。理由は大きく2つあります。
1つ目は、地上を走るJRや私鉄との相互直通運転が行われておらず、全線が地下を走行すること。外気に触れることがありませんので、冬場でも構内、車内は比較的暖かいのです。
2つ目は車両が他の路線に比べて小さい(幅35cm、高さ1m)ため、車内に熱がこもりやすいことです。
ちなみに、都営地下鉄の他の路線は暖房を使用し、設定温度は各線とも20度となっています。

東京メトロ銀座線

かつては、東京メトロ銀座線にも暖房装置を装備していない電車が走っていました。シルバーの車体にオレンジ色の帯が入っていた車両を覚えている方もいらっしゃるかもしれません。これが、暖房装置を装備していない「01系」と呼ばれる車両です。
「01系」の一部は冷房装置と暖房装置が非搭載。大江戸線と同じく、地上を走るJRや私鉄との相互直通運転が行われておらず、全線が地下を走行することがその理由です。
しかしながら、ある時期より冷房装置、暖房装置ともに搭載されることになります。そのため、暖房装置が搭載されていない編成は減少。2017年2月には、全ての“非暖房車”が銀座線から姿を消しました。

札幌市営地下鉄

札幌市営地下鉄では、2014年12月1日から2015年3月31日までの4ヵ月間、車内の暖房を原則停止としたことがあります。
その際の聞き取り調査では、約8割が「車内温度が適切」、9割が「車内暖房停止に賛成である」との回答でした。現在では、節電などの理由によって気温がプラスとなる日中のみ車内の暖房を停止しています(早朝、夜間や車内温度の低下が見込まれる場合には暖房を運転)。
札幌の冬は寒さが厳しいというイメージですが、冬は外気温に合わせた服装をしているため、外気温より温度が高い地下鉄のホームや車内にいる場合は寒さよりも暑さを感じるそうです。

新幹線の暖房

高速運転を行うことから、新幹線は可能な限り軽量化を図っています。そのため、一般的な電車のように座席下のヒーターは設置されていません。新幹線の空調は、床下に設置されているヒートポンプを利用。荷物棚の下(窓側)の吹き出し口から冷気と暖気が出ており、乗客が手動で調節することが可能です。

山手線には床暖房があった!?

かつては床暖房が装備されていた山手線

電車の暖房装置といえば、座席下に設置されているのが一般的。電気ストーブや遠赤外線ストーブなどに使われる「シーズヒーター」という暖房が使われています。席に座った際、足元が暖かく感じるのはこのシーズヒーターによるものです。

しかし、山手線では床暖房が装備されていた列車が一時期走っていました。その車両の名は「サハ204形」。今では見られない、片側6ヵ所に扉がある車両です。混雑時に乗れる人数を増やせるように、座席を跳ね上げて折りたたむタイプの車両といえば、思い出す方もいらっしゃるかもしれません。

この車両は他の車両より扉が多い(一般的な車両は3扉または4扉)ので、外気が多く入ります。その上、座席を壁側に格納するという構造上、座席の下に従来のような暖房装置を設置できません。これらの理由により、床暖房が設置されることとなりました。

小型のシーズヒーターも座席下に設置されていましたが、これはあくまで補助的なもの。座席が使用されている場合にのみ、シーズヒーターが稼働していました。

しかしながら、埼京線の延伸や湘南新宿ラインの運行、地下鉄副都心線の開業などにより、山手線の混雑率が低下。その結果、2010年には座席の格納を取りやめることになりました。さらに電車の4扉化も進んだことから、現在ではこの車両を山手線で見ることはできません。

列車内の暖房効率を上げるための工夫

暖房の効果を高めるための策もいくつかあります

その他、列車内の暖房効率を上げるためにさまざまな取り組みがあります。

通過待ち時に1つの扉を除いていったん閉める
首都圏においても私鉄で見ることができますが、特急・急行の通過待ちや始発列車など、停車時間が長くなる際、車内の温度を保つため1車両につき1ヶ所だけ扉を開けておき、それ以外の扉を締め切る場合があります。

乗客が自ら扉を開け閉めする
都心部ではなかなかお目にかかれませんが、降車の際に自分で扉を開け閉めするタイプの列車があります。これも、目的は車内保温。省エネにもつながります。
このタイプの列車に乗車した際に注意しなければならないのは、駅に到着してもドアが自動的に開かないということ。扉のそばにあるボタンを押して、扉を開けましょう。
乗車する際も同様です。扉横のボタンを押して扉を開け、乗車したらボタンを押して扉を閉めましょう。

まとめ

列車の暖房は進化を続けており、また鉄道会社各社とも車内の暖房効率を上げるために工夫をしています。
また、冬場は外気温に合わせて服装を選びがちですが、車内で快適に過ごすためには脱ぎ着しやすい服装にするのも1つの方法といえるかもしれません。

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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