日本でも広がる“脱ミート” 食品各社が語る「植物性肉」の今とこれから

動物愛護や環境保護、健康志向といった観点から欧米を中心に、急速に普及している代替肉。米国では植物性肉を代替肉として扱っているメーカー、ビヨンド・ミートが2019年5月にナスダック市場に上場し注目を集めました。しかし、「植物性肉」ってそもそも何からできているの? おいしいの? 「植物性肉」を取り巻く状況をリサーチしました。

大豆ミートの弱点を克服するための食品各社の工夫

日本でも、健康志向の高まりに応えてモスフードサービスが、2015年3月に期間限定で大豆由来の植物性タンパクを使った「ソイパティ」(一部動物性由来の材料を使用)を販売したところ、発売から約3週間で30万食を突破。そこで、同年5月から全国展開をスタートさせ、現在もモスバーガーでは「モスバーガー」や「テリヤキバーガー」など定番の9商品で、肉パティの代わりに「ソイパティ」を選択することができます。
さらに今年に入り、食品メーカー各社から植物性肉を使った新商品が登場しています。日本でも浸透し始めた植物性肉は、果たして広く普及するのでしょうか。

森永製菓

「プラントベース」と呼ばれることもある植物性肉の原料となるのは、主に大豆です。大豆を圧搾して油を抜き、加熱・成型・乾燥させたもので、何十年も前からかさ増しや食感増強を目的に使われてきたといいます。しかし、低脂質・高タンパクで健康に良いという特長があったにも関わらず、その弱点からなかなか普及しなかったとか。

森永製菓の社内ベンチャーとしてスタートした、SEE THE SUNでは、2019年8月26日、玄米入り大豆ミート「ZEN MEAT(ゼンミート)」とレトルトシリーズを大幅リニューアルさせました。執行役員 商品開発部部長 高橋慎吾さんは、商品開発の苦労を次のように語ります。

「植物性肉は市場として将来性が期待できること、また、ヘルシーさとサスティナビリティ(持続可能性)の両立ができる稀有な素材であることも、注力を決めた大きな要因です。しかし、一般的な大豆ミートには大豆臭さという弱点がありました。それに対し、ゼンミートは玄米の香ばしさで大豆臭をマスキングしているという特長があります。さらに、ゼンミートを使用しているレトルトシリーズは、発売当初は旨味やコク出しに動物性原料を使用していましたが、試行錯誤を重ね、2018年11月に動物性原料を一切使用していない商品の開発に成功。よりユーザーの間口が広がりました」

ゼンミートはミンチ、ブロック、スライスの3タイプ。お湯で3~5分茹でて水気を切り使用します

大塚食品

2018年11月にテスト販売を始め2019年6月にリニューアル&本発売をした大塚食品の「ZEROMEAT(ゼロミート)」も、食感・味・香りを肉そっくりにするのが難しかったといいます。

「弊社には、スゴイダイズやしぜん食感SOYなど以前から大豆を使った商品があり、開発ノウハウもありました。それでも、いかにして通常のお肉のハンバーグに近づけるかということが開発の課題となりました。そこで、顕微鏡で本物のハンバーグの細胞を分析する「リバースエンジニアリング」という科学的分析方法を使い、食感は細胞レベルで、味は脂肪酸の種類や量を分析することで、本物の肉に近づけることに成功。デミグラスソースにも動物由来の原料を使わず、チーズインデミグラスタイプにも濃厚な豆乳クリームを使用しています」(大塚食品 新規事業企画部 嶋 裕之さん)

食感や味・香りだけでなく断面の見た目や色味も合いびき肉のハンバーグそのもの。要冷蔵のチルド商品

マルコメ

大手味噌メーカーのマルコメは2015年、より手軽に使える食材としてレトルトタイプの大豆ミートを開発しました。動物性原料や化学調味料を一切使わない製品開発に、苦労したといいます。その開発ストーリーはホームページでも公開されています。

湯戻し不要の「ダイズラボ 大豆のお肉レトルト」は、フィレタイプ、ミンチタイプ、ブロックタイプの3種類

価格は豚肉と同じくらい、冷えても脂が固まらない!

乾燥タイプのSEE THE SUN「ゼンミート」の場合、ミンチタイプは130グラムで495円(税込)。湯戻しをすると約2~3倍の重量になるため、100グラムあたりの価格は約150円程度です。
マルコメの「ダイズラボ 大豆のお肉レトルト ミンチ」の場合は、100グラムで250円(税込、参考価格)。豚肉は、ミンチ肉だと100グラムあたり100~150円、切り落とし肉で130円~190円くらい、バラ肉や豚肩ロースだと250~300円ですから、価格としては豚肉と同等とみなしてよさそうです。
また人気レシピサイト、クックパッドで「大豆ミート」を検索すると、2,100種類以上のレシピがヒットします。ユーザーコメントには、「冷えても脂が固まらない」「冷めても美味しい」「油っぽくならない」「火を使わずレンジで調理できるから便利」と、好評なコメントが多く見受けられます。
さらに大豆ミートは、夫や子どもの健康を気づかう主婦層やタンパク質の摂取が推奨されているシニア層の利用も多いそう。実際に、ゼンミートを使ってハンバーグを作ってみたところ、牛豚合いびき肉のハンバーグとまったく遜色のない味わいかつ食感に驚きました。黙って出したら、植物性肉を使っているとはまったく気付かれないレベルです。精肉より保存がきき、手軽に使えるので、ぜひ使ってみてください。

左/ゼンミートと合いびき肉を1対1の割合でつくったハンバーグ。右/湯戻ししたゼンミート

新たな肉の選択肢の一つとして定着を目指す

共働き世帯が増え、スーパーや精肉店・鮮魚店には、半調理済みの食材が多く並ぶようになりました。例えば、サラダチキンが爆発的な人気となったのは2015年のこと。今年7月に発表された「平成30年度鶏肉調製品の生産及び流通実態調査」(独立行政法人 農畜産業振興機構)によると、2013年のコンビニエンスストアでの販売開始を契機にサラダチキンの知名度が上がり、2015年・2016年と取扱業者が急増したことが判明。いまや、ハムやソーセージなどの加工肉売り場に当たり前のようにサラダチキンが並んでいます。
植物性肉も新たな肉の選択肢の一つとしての地位を得ることはできるのでしょうか?

「弊社では植物性肉を肉の代替品とは考えていません。植物性であることが強みになっており、かつそのことが健康や環境問題への意識が高い消費者のニーズを満たす商品開発を行っていくことが重要だと思っているからです。最近は、ハンバーガーショップでも植物性肉を使った商品を出していますが、ビーガン(完全菜食主義)やベジタリアン(菜食主義)向けの商品ではなく、あくまでもハンバーガーを食べる罪悪感を薄めるための商品として提案しているわけですよね。弊社の扱っている植物性肉も、ビーガンやベジタリアンの方だけをターゲットにしているわけではなく、むしろ肉を食べたいと思っている人に、おいしくてヘルシーな肉の新たな選択肢の一つとして認知していただきたいと思っています」(SEE THE SUN 高橋さん)

そういえば、つい最近、湖池屋からその名もズバリ「罪なきからあげ」というスナック菓子が登場し、肉を食べる罪悪感を解消する商品として話題になっていましたね。

味は唐揚げそのものながら、1袋124キロカロリーと罪悪感なく食べられます

普及&定着のカギを握るのは、より身近で手軽な商品の開発

ゼンミートのレトルトは、写真のストロガノフのほか、キーマカレー、欧風カレー、ボロネーゼソースの4種類

昨年食品業界で大きな話題を呼んだニュースに、カレールーとレトルトカレーの売上逆転がありました。株式会社インテージの調査によると、レトルトカレーは2013年以来、徐々に伸長を続けた結果、2017年には販売金額461億円を記録。2011年の530億円から456億円まで販売金額が落ち込んだカレールーを史上初めて抜いたのです。

「レトルトカレーとカレールーの売上が逆転したように、今後レトルト市場は拡大を続けていくでしょう。いまやレトルト食品は、さまざまな価格帯の商品ラインナップが登場してきています。特に高価格帯では、めずらしい食材や高級食材を使ったり、現地に足を運ばなければ食べられない商品といった高付加価値のある体験型商品も登場。植物性肉を使ったレトルトも、動物性原料不使用、低脂質、香料不使用などの付加価値の高い商品の開発を行っています。またレトルト食品に限らず、消費者に植物性肉の良さをより身近に感じていただけるような商品開発をしていくことが、今後の市場形成のカギだと考えています」(SEE THE SUN 高橋さん)

「現在、ゼロミートはチルドのハンバーグ売り場にあったり、お豆腐売り場に並んでいたり、お総菜売り場に置いてあるなど売り場がお店によってまちまちで、一般の消費者が売り場を探さなければならない状況です。今後、さまざまな種類の商品を出すことにより、植物性肉の商品をコーナー化するなど、お客様にわかりやすい売り場を提案していきたいと思っています」(大塚食品 嶋さん)

まとめ

植物性肉は単なる肉の代替品としてではなく、健康志向や環境問題への意識の高まりに合わせ、よりヘルシーでおいしい食品として進化を始めたようです。また、せっかく動物性原料を省くのなら、より健康にも環境にも役に立つ商品にしたいと、各メーカーはしのぎを削っているようです。SEE THE SUNのゼンミートは、パッケージや段ボールにFSC認証(森林の管理方法や木材の流通・加工のプロセスなどが適切であることを認証する制度)を受けた素材を使用。古民家を改装した葉山にある本社も、自然エネルギー電力を使うなど、商品だけでなくブランド全体でサスティナビリティを意識しているといいます。

マルコメのダイズラボの総菜の素は、写真の「ボロネーゼ」や「ガパオライス」をはじめ、「麻婆豆腐の素」「回鍋肉」など全9種類

「ダイズラボ 大豆のお肉」を展開するマルコメも、「今後も、伸びゆく植物性肉マーケットにおいて、余計な添加物を加えない、ヘルスコンシャスな商品展開を考えています」(マルコメ マーケティング部 広報宣伝課 其田譲治さん)というように、植物性肉の普及は、食の安心・安全につながっているようです。

また同社の商品は、この10月からイトーヨーカドーの一部店舗で精肉売り場での陳列が始まるとのこと。植物性肉にとって大きな転換点となりそうです。

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