立て続けに日本列島を襲った台風15号、19号。強風と大雨が多くの地域に甚大な被害を与えましたが、そこで注目されたのが「ハザードマップ」です。
ハザードマップとはいわゆる被害予測地図のことで、自然災害による被害を予測し、その範囲を地図上に表したものです。
今回の台風による洪水や浸水の被害がハザードマップどおりに起こったケースも多く、あらためてその重要性が見直されています。
そこで、ハザードマップの活用法と利用する際の注意点などを、名古屋大学大学院工学研究科 土木工学専攻 中村晋一郎准教授にお話をうかがいました。

いますぐハザードマップを確認しよう

ハザードマップは各自治体が作成していて、ネット上で見ることができます。
自分の住んでいる地域のものを見るには、検索サイトで「ハザードマップ(自治体名)」で検索すればヒットします。
これらは市町村などの自治体が作ったハザードマップです。
スマホでも見ることはできますが、小さな画面ではわかりにくい場合もあるので、できればパソコンやタブレットなどの大きな画面で見ることをおすすめします。
さらに、プリントアウトして紙で保存しておくようにしましょう。
理由は後ほど説明します。

世田谷区のハザードマップ
世田谷区のハザードマップ。想定される浸水の深さが色分けされています。また、家屋が倒れるような氾濫が起きる地域も示されている。その他、避難場所や避難すべき方向(矢印)など、災害の起こった場合に必要な情報がまとめられています

ハザードマップは「3度見る」

中村晋一郎准教授によれば、ハザードマップは見るべきタイミングは3度あるといいます。

「まず、住宅を購入する前。購入予定の地域にどのような災害リスクがあるのかを確認します。新しく開発されたエリアは、もともと湿地だった場所を埋め立てたり、山を切り崩して造成したりしている場合が少なくありません。ハザードマップを確認することで、どのような災害被害が起こる可能性があるのかを確認してから、購入の決定をしましょう。」(中村 准教授)

「次に、住宅を購入した後。どのような災害被害が起こる可能性があるのかを確認し、それに備えるようにします。場合によっては避難するという選択肢も考慮して、避難所の確認や経路を決めておきましょう。最後に、ニュースの災害報道や警報が出た後。避難指示などが出ている場合は、あらかじめ調べておいた避難所へ、安全な避難経路を使って避難します。」(中村 准教授)

「災害時には停電でパソコンが使えなくなったり、スマホの電波が通じにくくなったりすることがあるので、ハザードマップはプリントアウトするなどして紙の状態で持っておくことが重要です。地震の場合の避難所と洪水のときの避難所が違うこともあります。また、避難所がすでに満員ということもあり得るので、複数の避難所を確認しておかなくてはなりません。また、一時避難所から、大きな避難所に移動するということもあるので、ハザードマップはすぐに確認できる状態にしておきましょう」(中村 准教授)

普段から「水の行方」を意識しておく

先日の台風では、「内水氾濫」という耳慣れない用語が話題になりました。河川の氾濫ではなく、街なかの排水が処理しきれずに水が溢れてしまうという現象です。

河川の状態にばかり気を取られていて、知らず知らずのうちに水が上がってきたという被害も報告されています。

「内水氾濫についてですが、ハザードマップに盛り込まれている自治体とそうでないところがあります。盛り込まれていない場合は、日常的に雨が降っているときに、雨水がどのように流れているのかを追ってみることで、ある程度の予測をつけることができます。排水路や小さな川に流れ込んでいる様子などを確認しておくと、大雨のときに内水氾濫が起こるかどうかをある程度は判断できるようになります。」(中村 准教授)

「浸水に関するハザードマップで注意しておかなくてはならないのは、基本的に浸水の「深さ」を基に作られているということです。台風19号で甚大な被害を引き起こした千曲川ですが、堤防が決壊した場所のすぐ脇の住宅は、2mほどの浸水でしたが、基礎だけを残して家屋が流されてしまいました。
原因は、川から氾濫した水の『勢い』です。住宅は自然堤防の上に建っていて、まわりより少し高い位置にありました。そのため浸水の深さは2m程度でしたが、実際は決壊したところから勢いよく水があふれ、建物を流し去ったのです。こうした被害については、ハザードマップを見ても予測ができません。ハザードマップといえども万能ではないので、水の流れについても日頃から意識しておく必要があります」(中村 准教授)

土地の性質や由来にも注意を払う

各自治体が作ったハザードマップとは別に、国土交通省が提供している「ハザードマップポータルサイト」というものがあります。

国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
国土交通省「ハザードマップポータルサイト」

これは、全国の市町村が作成したハザードマップをより簡単に活用できるようにするためのもので、多くのリスク情報をまとめて見ることができるので、防災に役立てることができます。

「『ハザードマップポータルサイト』では、一部の地域だけですが『明治期の低湿地』『活断層図』『地形分類(自然地形、人工地形)』などを見ることができます。
こうした過去の地形や土地の状態を知っておくことも重要です。たとえば、治水工事で川の流れを変え、かつての流路に住宅が建っていることもあります。また『氾濫原』といわれる河川の堆積作用で生じた平地も、住宅地として活用されています。」(中村 准教授)

「もちろんハザードマップにも反映されていますが、そうしたエリアには、堤防が決壊すれば水が押し寄せてきます。また、周囲の地形を見渡して、一段低くなっている所があれば、そこに水が流れ込んでくることも予想できます。こうした被害に対しては、個人で対策を施すのは限界があります。被災時に使えるものをシェアしておくなど、地域ぐるみで対応を検討しておく必要があると考えます」(中村 准教授)

ハザードマップポータルサイトの使い方

ハザードマップポータルサイトの「重ねるハザードマップ」では、地図上や住所などの検索から、特定の地域・地点の災害想定情報を見ることができます。

「重ねるハザードマップ」
「重ねるハザードマップ」を使うと、防災に役立つ様々なリスク情報を1つの地図上に重ねて表示できる。 ピクトグラム(アイコン)から選択して、「洪水のおそれがある場所」「土砂災害の危険がある場所」「通行止めになるおそれがある道路」を重ねて表示させれば、避難する際に安全な経路を調べることができる(「ハザードマップポータルサイトの紹介」より)
「重ねるハザードマップ」
また、自宅付近など、特定の地点でどのような災害の危険性があるかを、1枚の地図上で知ることができる。 「洪水浸水想定区域」「治水地形分類図」を表示させれば、水害や液状化の危険性がわかる(「ハザードマップポータルサイトの紹介」より)

また、「わがまちハザードマップ」は、自治体が作成したハザードマップを検索して探し出すことができます。
自治体を指定すると、どのようなハザードマップが公開されているかも一覧でわかります。
自治体のハザードマップと併せて、防災に役立ててみましょう。

取材先:名古屋大学大学院土木工学専攻 中村晋一郎准教授。 水を通した社会、地域づくりに関する教育・研究を専門とする

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