5年前、香川県にUターンで移住した二川大地(ふたがわ たいち)さんは、奥さまとお子さん3人の5人暮らし。経験ゼロから農業をはじめましたが、今や青ネギ(2.5ヘクタール)を主体に、ニンニクや香川の伝統野菜「まんば」など全4ヘクタールを栽培しています。そんな二川さんに移住のきっかけや、暮らしの変化、これからのビジョンを語ってもらいました。

このままでいいのか!? 気づきを与えてくれた祖父の死

「香川県に移住してきたのは30歳のときです。それまでは大手住宅メーカーの営業として佐賀県で働いていました。戸建の販売だけでなく、土地や賃貸など資産活用としての提案を行う不動産コンサルティングのような仕事も担い、毎日忙しく過ごしていました。営業なので結果が給料に反映される面白さもあり、気づけば8年の歳月が流れていました」

「8年のうちに結婚し、子どもも生まれていましたが、私はといえば家庭を顧みることもなく、朝7時に出かけ、帰りは毎日午前様。家事や育児のすべてを妻に任せっきりでした。そんな状態で家庭がうまくいくわけもないのですが…。あるときがむしゃらに走り続ける私を立ち止まらせる出来事がありました。それは、香川に住む祖父の死であり、父の大病でした」

「先のことを考え、このままでいいのか自問するようになりました。そして、前々からぼんやりと考えていた“男として生まれたからには自分の力で起業してみたい”という想いが強くなり、“35歳までなら失敗してもやりなおせる!”と思い切って退職。香川県に移住しました」

起業することを前提にした移住先は馴染みのある香川県

「父親の仕事の都合で中学3年生までは愛媛県に住んでいましたが、両親が香川県出身で、私自身も高校3年間は香川県で過ごしていたため、香川県は馴染みのある場所でした。移住する頃には両親も退職して香川県に戻っていたこともあり、香川県への移住を決めました。転職というよりも起業のための移住で、農業することを考えていたので、耕作地の多い香川県は条件に合う場所だったんです」

「佐賀での暮らしは住宅メーカーのサラリーマン、香川での暮らしは農業とライフスタイルが大きく違うので、なかなか比較は難しいですが、今の暮らしのほうがトータル的に満足度が高いですね。家族と接する時間が増えましたし、Iターンで高松に来た同世代の就農者たちもいて、刺激になります。新しい事業の立ち上げも考えていて、仕事にワクワク感があるんですよね。“やらされる仕事”ではなく、自分たちの想いを実現するために動く仕事はやっぱり面白いですよ」

前職の営業スキルを活かして販路開拓

「大学時代に農業生産法人の研究をしていたこともあり、移住後は就農して会社を立ち上げるということは決めていました。とはいえ、両親や祖父母を見渡しても家系に農業経験者はゼロ。私自身、農業未体験という状態でしたが、農業大学校の研修を受講して就農しました。1年目は自宅の裏の洗濯物干場を作業場にしてスタート。2年目に小さなハウスを建て、3年目に縁あって今の倉庫を借りられるようになり、少しずつ経営も安定してきました」

「就農して1年目の売り上げはサラリーマン時代に比べてゼロが1つ足りないほどの落差がありました。今は5年目で、決してゆとりがあるわけではありませんが、年間を通して収穫できる青ネギを主体にして、労働力を分散させたり、直取引のお客様を増やしたりしながら収入の見通しが立つ農業ができるようになってきました。目指すはサラリーマン感覚の農業。収穫量や時間、作業効率といった数字を把握しながら、労働力に対してきちんと還元できる農業を確立したいです。これも前職のノウハウが活きてるんですよ。(笑)」

青ネギの面積は2.5haだが1年に3回転するので年間7haを栽培していることに

生活スタイルが大きく変わり、家族との時間もたっぷりと

「生活面でも変化はあります。佐賀ではオール電化で太陽光パネル付きの家に住んでいたので光熱費は安かったのですが、今は築20年の住宅に住んでいるため光熱費は上がりました。ですが、親が建てた家なので家賃はゼロ。加えて飲みに行く機会がぐんと減ったので食費も随分と減っていると思います。“農家つながり”で野菜のお裾分けもありますし。そう考えると項目ごとに増減はありますが、全体的にはプラスなのではないかと思いますね」

「子どもは3人います。今年2歳になる娘はまだ何も習い事はしていませんが、6歳になる長男はスイミング、9歳になる長女はスイミングとピアノに通っています。特に何かを習わせたいと思った訳ではなく、友達が習っているとその影響で自分も習いに行きたいっていうんですよね。子どもたちがやりたいことをやるのが一番だと思うので、そういう環境は作ってあげたいと思います。親が押し付けるのではなく、主体的にしたいことを応援する。そういうスタンスでいたいです」

「一番下の娘は普段から作業場にいますし、上の子どもたちも幼稚園や学校が終わったら作業場に来ます。働きながら子どもの成長を間近で見られるのはうれしいですね」

蝶々を捕まえたり、草花を摘んだり。自然豊かな環境で子育て真っ最中

起業型移住は持続可能なビジネスかどうかの見極めが大切

「移住を考えはじめたときにネックになるのが、移住先に仕事はあるのだろうかという不安だと思います。香川県はうどんだけでなく、現代アートの先進県としても知られ、その影響からか直島や小豆島への移住者が増えていると聞きます。カフェやゲストハウスなどを営むことが多いのだとか。それはとても喜ばしいことですが、一方で思ったような結果が出ないからなのか、早々に引き上げてしまう人たちも少なくないそうです。そういう話を聞くと、安易に好きなことを仕事にするのも考えものだと思います」

「私自身、農業が好きで農業法人を立ち上げた訳ではありません。事業体として成り立つかどうか、人が雇えるか、利益が出るかなど、根拠となる数字を見極める必要があると思います。これから移住を考えている人にはぜひ、感覚だけでなく、ざっくりでもいいので収支のシミュレーションをしてみて事業を選択してもらいたいです」

「あと、仕事って広がっていくんですよね。私の場合、自社農園を経営していますが、周囲からの要望もあって、今後は『青果物の地域商社』として、農家とお客様をつなぐ役割も担うようになります。つまり、仕事は現状の課題や疑問をクリアしていくことで誕生するものもあるはず。そう考えれば移住先で腰を据えて仕事をしていれば、新しいビジネス創出のチャンスもあると思うんですよ」

香川県の農商工連携事業で生産者がいなくなった品目の栽培にも挑戦する

まとめ

転職型移住の場合、転職先の給料などが明確なため、移住してからの暮らしのビジョンを立てやすいですが、起業型移住の場合はその事業が軌道に乗るまで収入が安定せず不安なこともあるのではないでしょうか。実際、二川さんも農業がうまくいかなかったらアルバイトをして家計を支えようと考えていたといいます。

しかし、5年目の今、二川さんは独自の販路開拓や若手就農者との連携を深めることで、自社農園の発展だけでなく、地域の農業活性化にも取り組むなど着実に事業を拡大しています。

数字管理の下で行う農業は安定的に収入を確保することにつながり、そのシステムを知った仲間たちの声を受けて新たな事業へとつながっていったそうです。一方、支出面では生活環境の変化から外食が減少。それによって家族との時間が増えるという“副産物”も得ています。

仕事、家族、地域。二川さんの暮らしにはこれら三つの要素があり、バランスよく連携しあっているようです。移住スタイルはひとそれぞれ。自分にあったスタイルを見つけてみてください。

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