2019年2月、日野市役所の職員に一風変わった手帳が配布されました。その名も「絶対に人に見せてはいけない職員手帳」。日野市の魅力や日野市職員の仕事内容をQ&A方式でイラストとともにわかりやすく、ユーモラスにまとめた一冊です。この、前代未聞の試みが注目を集め、同年5月には書籍として全国発売をスタート! 好調な売れ行きが続いています。
そこで、職員手帳の制作を手がけた「日野の魅力発見職員プロジェクトチーム」の企画部長である大島康二さんと同チームメンバーの塩入さん・馬場さんに、職員手帳を製作した経緯や日野市の魅力について、お話を聞きました。

日野市の認知度向上を目指し、職員手帳を制作

 ―「日野市の認知度が低い」という事実が、手帳を作る動機になったそうですね

「手帳の制作を通じ、日野市の魅力を再発見できた」と笑顔で語る塩入さん(左)と大島さん

塩入さん:日野市の認知度調査を実施したのですが、日野市に住みたいと考えていない人の理由を調査したところ、20%もの人が「そもそも日野市を知らない」ことが発覚。「これは何とかしなければ」と思い、まずは内部の職員に働きかけるために職員手帳を作ることに決めました。

大島さん:日野市には、JR中央線の終点駅でおなじみの豊田駅や、京王線と多摩都市モノレールが2路線利用可能な高幡不動駅、多摩動物公園駅など、市内に3路線12駅があり、利便性は十分新選組のふるさととして知られ、関連する観光スポットもたくさんあります。土方歳三の菩提寺・高幡不動尊や多摩動物公園など認知度が高いスポットがあるにも関わらず、日野市だと認識されていないことが多く、現在の課題だと感じています。

住む街を決めるにあたって、知らなければ候補に挙がりません。第一候補に日野市が出てこなかったとしても、「武蔵野市は住宅価格が高いな」「立川市はどうだろう」と考えるなかで、日野市も候補の一つとして検討してほしい。そのために、まずは日野市の認知度を向上させることが大きな一歩だと思っています。

―「日野市の職員手帳」が書籍化されての反響は?

右が市職員向け、左が書籍版。内容やデザインのほか、紙質なども異なります

塩入さん:職員手帳を職員に配布後、メディアに取り上げていただき、反響が大きかったことから書籍化が決まったのですが、初版で5,000部を刷ったすぐ後に3,000部を増刷しました。7月には再び重版が決まり、2019年8月現在で1万1,000部を発行したことになります。書店で平積みされている様子を見るとうれしいですね。

馬場さん:日頃から、新聞社の取材を受けることは多いのですが、職員手帳の書籍化を通じ、さまざまなメディアに日野市を取り上げていただいたのは初めての経験でした。近隣の自治体以外からも問い合わせが増え、先日は鹿児島県の方からも連絡をいただきました。

大島さん:さすがに、鹿児島県から日野市に引っ越してくれるとは思っていませんが、遠方の方々に興味を持っていただけたことがうれしいですね。反響の大きさを感じています。

思わず持ち運びたくなる、本格仕様の職員手帳に

―みなさんが持ち歩いている「日野市の職員手帳」と書籍版の違いは?

塩入さん:メインコンテンツは同じですが、職員以外の方が読んでも理解していただけるよう、書籍版には手帳を作った経緯などエピソードを盛り込みました。一方、日野市が東京の“ど真ん中”であることを示す地図は職員用の手帳にのみ封入しています。
また、職員には常に手帳を携帯してもらいたいという思いから「持っていたくなる質感」も意識。紙の品質や装丁にはじまり、薄く耐久性のある紙に印刷したり、角をラウンドでカットしたりと細部まで工夫を凝らしています。気鋭のアートディレクター、俵拓也さんに力を貸していただきました。

職員用の手帳に封入された、日野市がど真ん中にあることを示す地図。裏面は日野市の名所をまとめた「日野アンチョコMAP」になっています

―奥付には俵さんのほかにも協力者の名前が並んでいますね

塩入さん:広報アドバイザーの楠本淳さんにご相談したところ、デザイナーの俵拓也さんと、コピーライターの中西未紀さんを紹介いただきました。プロジェクトの発足当初からがっつりと、チームの一員として参加していただきました。

大島さん:プロジェクトメンバー11人の所属部署がバラバラなため、平日に全員が顔をそろえることは難しく、土曜に集まることが多かったですね。手帳制作のために、丸1日かけてネタ出しをしました。朝10時から夜10時まで意見を出し合ったことも、1度や2度ではありません。その度、外部から招いたプロのお三方にも同席していただきました。参加した全員にとって刺激的なプロジェクトになったと思います。

そんな中、ネタに合わせて俵さんが最初に描いてくださったのが、川で鰻を捕まえているカットです。俵さんは当初、ほかの方にイラストを依頼する予定だったようですが「是非、すべてのイラストを俵さんに」とお願いをして、ご本人に描いていただきました。

挿絵はすべて「俵社」の代表を務めるアートディレクター、俵拓也さんが手掛けています

―2月に職員手帳が職員のみなさんに配布されてから、何か変化がありましたか?

塩入さん:おかげさまで多くのメディアに取り上げていただいた影響で、「すごい手帳を作ったらしいね」と声を掛けられる職員が増えたようです。楠本さんが「手帳を持っているというプレミア感が大事」と話してくださいましたが、その言葉を実感しています。職員手帳を通じて日野市の魅力を発信したいと考えていましたので、期待通りの効果を発揮してくれていますね。

大島さん:ほかの自治体の関係者から「おもしろいものを作りましたね」「買いましたよ」と声を掛けられることが多く、私たちの思いが届いている手応えを感じています

職員手帳の発行をきっかけに、新しいアイディアを取り入れる風土に

―日野市の魅力だけでなく、公務員として働く魅力も考えさせられる一冊ですね。

大島さん:公務員にかかわらず、仕事に対する意義や目指すところなど、共通の悩みを抱えている方は多く、そうした方々の心に響いているかもしれませんね。「実際の仕事っておもしろいんだよ」ということも発信できたのではないかと思います。

職員手帳の制作を通じ「ワクワク感をもって仕事をすることの大切さを知った」という馬場さん

馬場さん:私はこのプロジェクトに携わっている最中に教育部・庶務課へ異動となりました。その後、日野市のホームページをリニューアルする作業や日野市学校教育基本構想の作成に携わりましたが、手帳を作るプロジェクトで「みんなで作るワクワク」を体感した経験やマインドが現在の業務にも生きています。日野市学校教育基本構想は従来、分厚い冊子のようなものでしたが「みんなで作っていく日野の教育を目指したい」という思いから、観音開きのパンフレットに。「子どもに合った学びを大切にしたい」というシンプルなメッセージを簡潔にまとめることができました。

大島さん:異色の職員手帳を作ったことが「ここまでやってもいいんだよ」という、一つの道しるべになったのではないでしょうか。職員一人ひとりが、目的に向かって工夫をすることの大切さを認識してくれたのであれば、今回の企画の半分は成功したと言えるかもしれません。

多摩川や浅川により形成された沖積低地や日野台地、多摩丘陵もある日野市

―ところでアルヒでは、実際にその地域で“生活する”という視点で「本当に住みやすい街大賞」を選定しています。日野市の「住みやすさ」をアピールするとしたら?

馬場さん:立川や八王子といった繁華街はありませんが、だからこそ、日野市ならゆったりとした雰囲気のなかで生活できます。JR中央線の日野駅や豊田駅、京王線の特急も停車する高幡不動駅があり、多摩都市モノレールも利用できる、利便性が高い街でもあります。ふと見渡すと目の前にブルーベリー園や田んぼ、農場があり、ゆったりとしていながら、都心にも近くて安心・安全に住むことができる街です。

大島さん:手帳でも触れましたが、東京で河川・低地・台地・丘陵の4点セットを擁するのは日野市だけ! 東京のど真ん中で、この環境を自分のものにできることが魅力です。多摩川や浅川といった川や、そこから水を引く用水路や遊水池は子どもにとって絶好の遊び場ですし、起伏のある丘陵地を歩くだけでトレーニング代わりになり健康的です。子どもだけでなく、大人にとっても楽しみの多い場所です。

馬場さん:地元の子どもたちが日野用水で川遊びを楽しんだり、大きくなると多摩川で魚釣りに興じたり、身近な自然を生かして遊んでいる様子を間近に見聞きしてきました。南平丘陵公園を散策中に、裏道を通って多摩動物公園を眺めることができるのも、日野市ならではのこと。「日野市といえばこれ!」という核になるスポットはないかもしれませんが、日野市の地域ごとにそれぞれの良さがあります。日野市の職員として、今後はそうした魅力を認識し、発信したいですし、それは職員手帳を製作した際の目標でもあります。

―書籍では日野市内の隠れおすすめスポットも紹介していますね

職員手帳には15のおすすめスポットが掲載されていますが、最初に紹介されているのが「日野市役所」。煉瓦風タイルに日野の古い地名が焼き込まれた、1階ロビーの壁面は必見です!

大島さん:私は、おすすめスポットのひとつ「多摩平の森」内の、多摩平団地で育ちました。老朽化に伴う再開発により、現在は新しい街として生まれ変わりましたが、その際は多摩平団地の住民とUR都市機構が意志の疎通を図り、住民が「どんな街にしたいか」ヒアリングを重ねながら街づくりが行われました。保育園を敷地内に多数設けて若い世代を取り込むなどの努力で順調に世代交代が進み、幅広い世代が共存する街に。その結果、都市計画の一例として高い評価を受け、高齢化が進む全国のニュータウン関係者が視察に来るようになりました。

―最後に一言ずつ、日野市の魅力をアピールしてください!

右から、プロジェクトチーム・企画部長の大島康二さんと、同チームメンバーの塩入さん、馬場さん。塩入さんと馬場さんは同期だそうで、仲の良さが伺えました

塩入さん:日野市は「可能性の宝庫」。手帳作成を通じ、日野市の特徴を掘り起こしてみた結果、これだけたくさんの魅力があることが分かりました。今まで当たり前だと思っていたことを魅力として捉え、いかに発信するかが大切だと思っています。日野市が「何でもできちゃう」自治体であることもアピールしたいですね。みなさん、日野市にぜひ来てください!

馬場さん:日野市には25の小中学校があります。私が携わっている教育委員会では「日野市の学校として〇〇をやりなさい」と伝えるのではなく、地域ごとの特性を生かして学んでもらうことを目指しています。地域と子どもたちを大切にしながら、大人も子どもも学んでいける「可能性の宝庫」日野市をより高めていきたいですね。

大島さん:私は日野市で育ちましたので、無条件の愛があり、ひいき目に見ている部分もあると思いますが…。利便性の高い駅がいくつもあり都心にアクセスしやすいことや、河川・低地・台地・丘陵があり子どもと一緒に川遊びできる環境など、日野市にはたくさんの魅力があります。どれも唯一無二のずば抜けた特徴とは言えませんが、それらの魅力をセットで享受できることが、日野市の強みではないでしょうか。「質の高いパーツが揃っている街」であることを、より多くの人に知っていただきたいですね。

編集後記

筆者の日野市に対する認識は、恥ずかしながら「多摩動物公園って多摩市じゃなかったのか…」という程度の頼りないものでした。しかし、「絶対に人に見せてはいけない職員手帳」を読んで「東京のど真ん中」日野市に親近感を抱き、日野市役所の皆さんにお話を伺って「日野市を盛り上げたい」という気持ちに共感。インタビューが終わる頃には、日野市がすっかり「気になる街」となっていました。

日野市のように、ポテンシャルはあるものの、実力を発揮しきれていない街は全国各地にあるはず。日野市による攻めの街おこしが起爆剤となり、日野市はこれからどのように変わり、ほかの自治体にどのような影響を及ぼすのか、今から楽しみです!

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