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静岡県が「豊かな暮らし空間創生住宅地認定制度」という、ユニークな制度を2015年2月からスタートさせたことをご存じでしょうか? 認定第1号の、「しまだあさひガーデンプレイス」(2015年2月12日認定、大河原建設、全22区画)を皮切りに、これまで8件の住宅地が認定を受けています。ニュータウンや大規模団地ではなく、6戸以上という小規模な住宅地における豊かな暮らし方を後押しする、全国的にも珍しい取り組みです。2019年度に入り、他の自治体からもにわかに注目が高まっている、静岡県独自の住宅地認定制度創設のきっかけと、制度化までの経緯、今後の展望について調査してきました!

認定第7号、「あしたの杜」(旭化成ホームズ、2017年12月19日認定)の分譲開始は2018年5月。全99区画と、認定地の中では最大規模、一戸あたりの平均敷地面積185平方メートル
静岡駅から徒歩10分ほどの県庁。駿府城の濠の内側に建っていることにビックリ!

静岡県ならではの、生活と自然が調和する“家・庭一体の住まいづくり”構想とは?

静岡県が、新しい時代の住まい方構想をスタートさせたのは約10年前。現静岡県知事、川勝平太氏が知事選に初当選し、1期目をスタートさせたときに遡ります。平成23年2月策定の静岡県総合計画の中で、「住んでよし」の理想郷を実現するための取り組みとして、“家・庭一体の住まいづくり”が柱として立てられたのだといいます。その考え方の基本について、静岡県 くらし・環境部建築住宅局 住まいづくり課計画班の嘉茂信哉さんにお話を伺いました。

「川勝知事は、都会のいわゆる2DKなどの団地型住宅を好ましく思っていませんでした。そして、静岡県は海や川、富士山といった自然に恵まれています。これらを取り入れた静岡県らしい住まい方を提案したい、という思いが強かったのだと思います。そのため、“ふじのくに”ならではの住まい方と、新たな生活スタイルを提案していくことになりました」(嘉茂さん)

先進的な住宅地開発の実績がある専門家をアドバイザーとして派遣

後に‟豊かな暮らし空間創生と名称を改めることになる、‟家・庭一体の住まいづくりの実現に向けて、県が行ったのは、住宅生産振興財団の推奨する先進的な住宅地づくりをしている事例の勉強や視察。アイデアコンペを開催したこともあったといいます。しかし、行政だけで実現するのは難しく、そこで組織されたのが、外部有識者による基本政策検討委員会です。全国で先進的な住宅地づくりに携わっている専門家や研究者など7人による委員会の助言を得て、認定制度を創設することになったのだそうです。また、住宅地の道路や公園等の公共施設の整備についても、県が市町と共に補助する制度(限度額1千万円以内)が創設されました。

「新制度のスタート当初は、まず事業者の方々に制度を知ってもらうために、研修会や講習会を開催したり、認定要件を満たすためのアドバイザーを派遣することで制度の普及を図りました。認定第1号となった『しまだあさひガーデンプレイス』では、ブルームガーデンのぞみ野(兵庫県姫路市)を手掛けた齋藤広子横浜市立大学教授や、フォレステージ高幡鹿島台(東京都日野市)の景観コーディネーター・二瓶正史氏(有限会社アーバンセクション代表)にアドバイザーとしてサポートしていただきました。現在、県に登録していただいているアドバイザーは、ランドスケープデザインの専門家や、計画的戸建住宅の維持管理・企画・計画・支援のプロなど9人です」(嘉茂さん)

実際に、県が策定した認定要件を事業者が満たすにはハードルが高いことが現実だといいます。だからこそ、アドバイザーを派遣する制度を整え、「手を挙げてくれた事業者の方々を県が全力でバックアップしていきます」(嘉茂さん)ということですから、事業者にとっては新規住宅地開発を後押ししてくれる心強い制度なのではないでしょうか。

では、豊かな暮らし方を実現する住宅地とは?

静岡県が提唱する“豊かな暮らし空間創生”を実現するための4大要件

静岡県が考えた豊かな住まいづくりに必要な要件は、大きく分けて次の4つです。

  • 【1】暮らし空間が「家」の2倍以上の面積を有すること
  • 【2】道路境界線から5m、隣地境界線からは1m壁面を後退させること
  • 【3】庭を緑化し、建物の色彩を地域で調和させ、高さを抑えること
  • 【4】良好な住環境を維持するための組合や運営委員会等を組織すること

これら、暮らしの空間、住宅地としての空間、住環境への配慮、コミュニティの組織と維持管理体制を整えることで、豊かな暮らしを実現させることができる、そう提唱しているわけです。

特に、庭の緑化や建物の色彩の調和といった要件は、美しい街並みづくりには欠かせないものの、認定制度や景観条例がない地域では実現が難しいのが現実です。住みよい住宅地だと思っていたのに、奇抜な色やデザインの建物が出現したり、荒廃した庭により街の景観が一変するといったトラブルは、全国の住宅地で発生しています。そういったことを回避できるという点においても認定制度は役に立ちそうです。

認定された住宅地は各区画の広さに余裕があるため、駐車スペースや趣味の空間などをたっぷりと設けることが可能(写真はヘーベルハウス『のきのまent』)

認定制度が創り出す、新しい住宅地の未来予想図とは?

また、マンションでは住環境維持のための管理組合があるのが一般的ですが、住宅地にはそういった組織はこれまでありませんでした。認定第1号の「しまだあさひガーデンプレイス」では、管理組合を法人化するという住宅地としては新しい試みを実現させています。公園や広場、共有部分の管理や草むしり・清掃といった、従来、町内会が担ってきた役割を法人化することで、住環境の整備やコミュニティづくりが円滑になる可能性があります。

県庁での取材後、昨春から分譲が開始された「あしたの杜」に足を運んでみました。新富士駅から徒歩15分ということなので歩いて向かおうと思ったのですが、あまりの猛暑にあえなく断念。タクシーに乗り込み地図で場所を示すと、「ああ、旭化成の分譲地ね」とサックリ案内してもらえました。運転手さんによると、今年になって訪問客が増えているとのこと。購入を検討している人が多いようです。

現地に足を運ぶと、住宅の建築が進み少しずつ街ができてきているのが分かります

「現在、県として“豊かな暮らし空間創生”のために、新制度を創設して住みよい住宅地づくりを進めていますが、将来的には県民の皆さんから認定を受けた住宅地のような場所に住みたいという声が多くあがり、事業者がその声に応えて豊かな住宅地づくりを積極的に手掛けるようになってほしい。県民一人ひとりが住みよさを実感できるように、そして、県外の方々にも静岡県に住んでみたいと思ってもらえるように、これからも理想郷づくりに力を入れていきたいと思っています」(嘉茂さん)

他県に類を見ない新制度がスタートして4年。まだまだ住宅建築が始まったばかりの地域もありますが、いずれ街が完成した暁には、見学ツアーを組んで他県からの視察を受け入れることも考えているそうです。2019年2月に認定NPO法人ふるさと回帰支援センターから発表された調査結果によると、「2018年移住希望地域ランキング」で静岡県は前回の3位から2位に順位が上昇。県で行った住民アンケートでも、認定を受けた住宅地の住人の7割が「住みやすい」と回答、「空間のゆとり」に対する評価が高いという結果が出ているそうです。

豊かな暮らしを実現する新しい住宅地づくりのお手本として、日本中から注目が集まる可能性も高いといいます。その前に、一度チェックしに行きたいところです。

真正面に富士山が望める住宅地「あしたの杜」。新幹線の新富士駅から徒歩15分、新富士駅から品川駅までは1時間なので東京への通勤も可能です
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