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マイホームづくりやリフォームは、人生の大きなターニングポイント。多くの人にとって住宅購入は1度か2度の大きな買い物となるので、家族みんなが長く快適に住み続けられる空間にしていきたいですよね。一級建築士であり、京都で住宅設計事務所「(有)宇津崎せつ子・設計室」代表を務める宇津崎せつ子さんに前後編にわたってインタビューしたシリーズ、後編では「子育てしやすい家」「終のすみかとして心地よく暮らせる家」にフォーカス。こだわりが詰まった宇津崎さんの自邸や、宇津崎さんが手がけた施工例をもとに、家族が幸せを育む家づくりのヒントを教えてもらいました。

子育てしやすい家、老後に暮らしやすい家は実は同じ!

宇津崎さんは幸せ家族ナビゲーターとして、家事・子育てが楽しくなるような住宅設計をはじめ、間取りアドバイスやリバウンドしない収納法など800件以上の住まいをトータルプロデュースしています。事務所は京都にありながらも、関東や九州など全国各地から依頼が殺到し、セミナーや講演なども数多く行っています。

ー家事動線や間取りの大切さを実感し現状の家に不満を感じるのは、子どもを育てている世代と、子どもが巣立って夫婦ふたりきりに戻ったタイミングではないでしょうか。実際、出産を機にマイホームを購入する、定年前後でリフォームや住み替えをするケースも多く聞きます。それぞれで間取りの考え方や設計のポイントは違うのでしょうか?

宇津崎さん:
子育てしやすい家と老後も暮らしやすい家は、実は同じなのです。子育てしやすい家というのは、家事動線がスムーズだったり、段差や危険な箇所がなく安心して過ごせたり、子ども(家族)がどこにいても見守れる空間になっていたり……。これらは老後の暮らしにも必要なことばかり。家事や子育てがしやすい家は、老後も住みやすい。これを踏まえて設計しているので、私が手がけている物件は家で家族を介護することになっても、万が一見守りや看護が必要な家族が増えたとしてもリフォーム不要で快適に住み続けられるようになっています。赤ちゃんやお年寄りにとって快適なら、パパママ世代にとってはものすごく快適で家事や育児がしやすい家になっているということです。

宇津崎さんの自邸。キッチンで作業していても、視線はいつでも子どものほうに向けられているので安心

1階だけでも生活できる間取りが理想的

ーリフォームしなくても快適に住み続けられる家、家事や子育てをしやすい家というのは、具体的にどんなポイントがあるのでしょうか?

宇津崎さん:
1階だけでも生活が完結できる間取りになっていると、無駄な動作や心配ごとがかなり減ると思います。水まわりとリビング、日々使うものの収納、洗濯物を干すスペースなど家事をする場所を集めておくのです。こうすれば何度も階段を上り下りする必要がなく家事動線がスムーズだし、小さな子どもがいても目を離す時間を少なくできます。老後は体への負担を軽減できます。2階は子どもの部屋や趣味の部屋に。老後なら子どもや孫が訪ねてきたときに過ごすスペースにしてもいいでしょう。

リビング、浴室、トイレがつながっていると生活しやすい

宇津崎さんの自邸。洗面所とトイレ、浴室がつながっており、その奥は家事室。浴室の両側にドアがある「楽スルー」は登録商標になっています。トイレはリビングともつながっているので、子どものトイレトレーニングや家族の介助もスムーズ

宇津崎さん:
水まわりも1ヶ所にまとめておくとラクです。おすすめはリビングとトイレ、洗面所、浴室がつながっている間取り。暗い廊下を出て寒いトイレに行くのは大変です。子どもはこわがってしまうし、お年寄りにとってはリビングとの温度差で体に負担がかかります。今でもトイレを離して設計するケースが多いのは、においが気になっていた昔の名残。今のトイレは脱臭機能が優れているのでリビングに隣接していても問題ありません。我が家はトイレをリビングの延長として設計していて、洗面所と浴室もすぐ隣に作っています。トイレと浴室が近いことで、介護もしやすくなっています。

お客様の施工例。洗濯室、キッチン、物干し場がつながっている間取りです。家事動線がすべて1階で完結するよう設計しています

洗濯室とキッチンがつながっているのも便利です。炊事しながら洗濯機を回すなど同時進行で家事を進められます。ちなみに我が家はキッチンと浴室の間に家事室を設けていて、洗濯、アイロンがけ、室内干しをまとめてできるようにしました。外干しする場合はキッチンを通り抜けてすぐ横の物干し場へ行きます。

リビング学習するなら、学用品収納スペースをあらかじめ確保しておく

ー子育て世代にとっては、子どもの部屋をどうするか、どこで勉強させるかが悩みどころになりそうです。

宇津崎さん:
私自身の考えでは、子どもの個室は寝るだけのスペースがあれば十分。ダイニングテーブルで家族の気配を感じながら勉強するほうがはかどるのではないでしょうか。そのためにはリビングダイニングを快適に、子どもが勉強しやすい環境と収納を作ることが大切です。あらかじめ勉強道具や学用品、ランドセルを収納する場所を想定してリビング収納を設計する必要がありますね。勉強道具や教科書は子ども部屋、でも学習するのはダイニングテーブルだと片付かないし、学習習慣も身につきません。我が家のリビング収納は壁一面にまとめていて、その1コーナーを子どもの学びゾーンとして確保しています。我が子はまだ3歳なので今は絵本や塗り絵を収納。小学生になったら勉強道具に変わる予定です。

宇津崎さんの自邸。壁一面に収納をまとめると、部屋がすっきり広く見えます。家族の行動に合わせて収納をゾーン分け。テレビ上の装飾、下段の日常使い、テレビ横の学び、グラスを収納しているバーゾーン、パソコンや書類を置く事務ゾーン、一番左の愛犬用品の6種類に
お客様の施工例。リビング収納に子どものランドセル、パパの通勤バッグを置く場所を確保。バッグの上がそれぞれの勉強道具・仕事道具などを入れるスペースになっています

宇津崎さん:
ちなみに我が家のリビング収納は、事務ゾーンには携帯電話・タブレット充電コーナーを設けました。子どもが思春期になっても、携帯電話を自室に持ち込まないためのルールを今から作っています。

吹き抜けがあれば、家族がどこにいても気配を感じられる

ー家族の異変にすぐ気づくためにできる、家づくりのポイントはありますか?

宇津崎さん:
子どもに関しては、リビングダイニングを快適にして自室にこもらせないことが第一です。あとはリビングに吹き抜けを作ると、家のどこにいても子どもの気配を感じられるのでおすすめ。1階と2階で離れていても声が聞こえやすく、様子をうかがうこともすぐにできます。我が家は2階の子ども部屋に小窓をつけているので、窓を開ければ自室から1階の家族と会話することが可能。2階にふたつある部屋どちらにも小窓をつけたので、吹き抜け越しにそれぞれの部屋から顔を見ることもできます。プライベートの時間を確保しながら、家族とほどよくつながれるしくみです。この考え方は終のすみかになっても同じ。家族が急に倒れたり、具合が悪くなっても気づきやすくなっています。

宇津崎さんの自邸リビング。吹き抜けがあると開放的な空間になるだけでなく、1階と2階をつなぐ役割を果たしてくれるそう
宇津崎さんの自邸。2階寝室にあるご主人のスペースから、吹き抜け越しに子ども部屋を見ることができます

個室をつなぐフリースペースが、狭さを感じさせないカギ

宇津崎さん:
吹き抜けとともに、我が家のお気に入りになっているのは2階のフリースペースです。廊下の代わりに第二のリビングとして活躍しています。ここはその名の通り何にでも使える多目的スペース。子どもがまだ小さいうちは走り回れる遊び場として、大きくなったらテーブルを置き、勉強・ライブラリースペースにしようと思っています。お客様への設計でもよくとり入れますが、趣味を楽しんだり、親子の研究室にしたり、ゴルフの練習をしたり……。引き戸で個室とゆるく仕切っているだけなので広く使うこともできて何かと便利です。これなら個室が多少小さくても、狭さを感じさせません。

宇津崎さんの自邸。2階フリースペースは家族が集える第二のリビング。洗面台もあり、子どもが遊ぶ気配を感じながらメイクできます

老後はフリースペースを趣味堪能スペースに

宇津崎さん:
子どもが巣立ったら、フリースペースは夫婦の趣味コーナーにするといいのではないでしょうか。吹き抜けで1階ともつながり、各個室にも行ったり来たりしやすいため、「ずっと一緒だと息苦しいけれど、気配だけは感じられると安心」という夫婦にもぴったりです。それぞれ自分の趣味を楽しみながら、ゆるくつながっているという距離感が、お客様からもとても好評です。使い方はご家族それぞれです。

お客様の施工例。2階フリースペースを夫婦のライブラリーに。ここのデスクでご主人が趣味のロボット製作を行い、横のピアノ室で奥様がピアノを楽しみます。和室はふたりの寝室です

まとめ

家族みんなが過ごしやすく、幸せを感じられる家づくりは、家族のライフスタイルや暮らし方、夢を知ることから始まります。家に暮らしを合わせるのではなく、自分たちの暮らしに合わせた間取りを作る。宇津崎さんは、住まいづくりを通してその後の人生が好転していくビフォーアフターを数多く目の当たりにしてきたそうです。マイホーム、そしてリフォームを検討しているなら、間取りや素敵なインテリアにとらわれるのではなくまずは理想の暮らしを思い描いてみてはいかがでしょうか?

【取材協力】
「住育の家」づくり一級建築士事務所 宇津崎せつ子・設計室

【写真提供】
宇津崎せつ子著『家事・子育て・老後まで楽しい家づくり 豊かに暮らす「間取りと収納」』(アートヴィレッジ)

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