マンションの「更新料」は払うべき? 法的な位置づけを解説

賃貸マンションでの暮らしが長くなると、ある日突然、管理会社から「更新料を支払ってください」という通知が来ておどろくことがあります。実は首都圏などを中心に、賃貸契約の更新の費用として「更新料」を求められる地域は少なくありません。ここでは、賃貸契約の「更新料」について、基本知識を中心に解説していきます。

更新料の徴収率は地域によって差がある

マンション賃貸契約で、約2年以上同じところに住み続けていると請求されることのある「更新料」。実はこの更新料は法的に定められた手数料ではなく、地域ごとの慣習によって決められているものです。そのため、地域によって徴収する地域と徴収しない地域があります。

地域ごとによる違いには調査データがあり、国土交通省の「民間賃貸住宅に係る実態調査」という調査結果によると、最も徴収率の高い地域は神奈川県で90.1%、以降高い都道府県から順に千葉県(82.1%)、東京都(65.0%)、埼玉県(61.6%)と関東の都道府県が続きます。4番目は京都府(55.1%)、5番目に愛知県(40.6%)という結果となっていて、地域によって更新料の徴収傾向に違いがあることがわかります。

注目すべきは西日本の大都市圏、大阪府と兵庫県です。この2県では賃貸契約の更新料という慣習がなく、更新料をとることはほとんどありません。西日本は全体的に更新料を徴収する習慣のない地域なので、関西から関東へ住居を移すと「更新料」の請求に戸惑うかもしれません。例外は京都府で、ここでは関東よりも相場が高く、家賃の2~3カ月分の更新料を請求されることがあります。このように更新料とは、地域によってその有無や金額の相場までまちまちなのです。

地域によってまちまちな更新料。引っ越しの際にはご注意を!

更新料は毎月の家賃を安くするためにできた制度

そもそも「更新料」というのはどういう趣旨でできた制度なのでしょうか。実は、更新料はもともと法的に定められた制度ではありません。そのため、何度かその必要性をめぐっては裁判が起こっています。平成23年7月に最高裁が更新料について「更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価などの趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である」という見解を示しました。つまり、更新料とは賃料の補充や前払、あるいは謝礼という意味合いがあると考えられるでしょう。

これには大家と賃借人、双方の利益に配慮した側面があります。まず、大家からの視点で考えると、賃貸マンションで空室状態が続くことは大きな問題になります。そのため、できるだけ賃借人に長く借りてほしいと考えていますし、賃借人がマンションを借りやすい条件を提示したいでしょう。そこで、月々の賃料を安く設定することで、入居希望者がマンションを借りやすくしようとします。しかし、実際に賃借人が長く住んだ場合、大家としては本来の賃料との不足分をどこかで補填しなければなりません。そこで、2年以上の長期間の場合には、その安く抑えた賃料の補填と、継続して住居を提供してもらったことへの賃借人からの謝礼の意味で「更新料」を支払うという慣習ができた地域が多いのです。

これはマンションを借りる側にもメリットがあります。万が一気に入らない物件なら、更新料を支払う前に引っ越してしまうので、結果的に通常より安い賃料でマンションを借りることができるからです。賃貸契約の「更新料」の慣習はこのようにして出来上がったのです。

更新料に法的な決まりはないが無効ではない

前述のとおり、マンション賃貸契約の更新料について法的な決まりはありません。つまり、これは大家と入居者側の任意契約ということです。双方が合意をして結んだ手数料なので、明らかにフェアではない不当な契約でなければ、更新料を定めること自体は有効である、ということになっています。

具体的には先ほども出た平成23年7月の最高裁判決で、更新料の有効性について「契約が更新される期間等に照らして高額過ぎるなどの特段の事情のない限り、更新料は消費者契約法10条に照らしても無効ということではない」という見解が示されています。つまり、更新料があまりも高すぎる場合以外は無効とは言えないということです。

では実際にどの程度の金額が「高過ぎる」と判断されるかですが、これも同じ判決で判断が示されていて、最高裁は1回の更新料は家賃2カ月分が相当という判断を下しました。ほかにも判例があり、大阪高裁が平成24年に出した判決では、1年更新で3.12カ月分の更新料を適法と判断しています。おそらく、これが更新料の金額判断の最大値と言えるものです。したがって、1年更新の場合、家賃3カ月分未満の更新料については、少なくとも判決上は「高過ぎる」とは言えないということになるでしょう。

更新料の支払いを拒否するとどうなるか

法律上、双方の合意がある場合には極端に不当なものでない限り、更新料の支払いに関しては有効とみなされます。したがって、最初に部屋を借りる際の賃貸借契約を結ぶときに、契約書に更新料の取り決めが明記されているかどうかが非常に重要です。

契約書に更新料についての定めが明記されていて、なおかつその内容に関する説明を受けていた場合、入居者側に更新料支払い義務が発生します。この場合に更新料の支払いを拒否してしまうと、借地借家法26条および28条に定められている「賃貸人(大家)が賃貸契約を解約するに足る正当な事由」として、大家側は契約解除を申し入れることが可能です。このケースでは最悪の場合、退去時に過去の入居年数で支払われるはずだった更新料だけなく、未払い時に発生した遅延損害金込みの金利を含めて請求される可能性もありえます。更新料の取り決めが双方の合意である以上、一方的な支払い拒否は大家側にとって不利益となるからです。

逆に、契約当初に更新料についての取り決めがない、契約書にその文言もなく説明も受けていない場合に突然更新料を請求されたのであれば、入居者側は更新料の支払いを拒否することができます。ただし、実際にこのようなケースはめったになく、更新料の慣習のある地域では、契約時に更新料の請求に関する内容を定めることがほとんどです。

更新時にかかるその他の費用

ではマンション賃貸契約の更新時には、更新料のほかにもいくらくらいかかるのかを説明しましょう。まず、更新料の取り決めがある場合に、賃貸更新の際にかかる費用には「更新料」「更新事務手数料」「火災保険の保険料」「保証会社の保証料」の4つです。更新料は家賃の1カ月分というケースが多く、この更新料にくわえて管理会社側に支払う「更新手数料」というものを請求されます。この更新手数料の相場は家賃1カ月分の半分くらいなので、手数料といっても無視できる金額ではありません。

このほかには「火災保険」の保険料がかかります。保険会社や契約内容によってさまざまですが、一般的には2年間の保証期間で1万5,000円から3万円といったところが相場です。もちろん、マンションの部屋の広さやグレード、保険契約の内容やオプションの有無によっても大きく変わっています。更新時や契約時には火災保険の内容についてもしっかりチェックするようにしましょう。

4つ目は「保証会社の保証料」です。これは賃貸時に保証会社を利用している場合に発生するもので、一般的には更新時に1カ月の賃料の3割から7割分くらいを支払うことが多いです。内容が分からない場合は保証会社や管理会社に問い合わせてみると詳細が把握できるでしょう。

退去するなら決められた期間内に意向を伝えよう

このように、マンション賃貸の更新料については契約時の取り決め内容が、支払いに関する重要なポイントとなります。更新期間の設定によっては、退去時に支払わなくていい場合があるので、短期間で退去するなら更新期間内にその意向を伝える必要があるでしょう。更新料はもともと家賃を低く抑えるために設定されている手数料ですから、入居している期間や新たな転居先の状況などによって、入居者にとって有利か不利かは変わってきます。契約時の内容をよく確認し、わからない場合は賃貸仲介会社や管理会社に問い合わせをしましょう。

(最終更新日:2019.10.23)
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