家でお酒を飲む。店頭にある数多くの銘柄から、今日、自分のための1つを選ぶことから「愉しみ」は始まります。お酒を「選ぶ」ことには常に「迷い」がともないます。ワインなら産地やブドウ品種、日本酒なら米の精米歩合や製法、ビールなら原材料やアルコール分、中には缶の裏側の製造日から「鮮度」を吟味する人も。お酒のラベルには、さまざまな情報が記載されていて、酒好きを自認し、知識が増えるほど、その情報にあえて迷うことで、選ぶこと自体が「愉しみ」になるのです。

しかし、多くの酒好きがスルーしてしまう情報があります。缶ビールのラベルにある英文です。数行もの文章ですから、何かビールに関する重要な情報が記載されているかもしれません。スーパーマーケットに並ぶ、日頃よく買う銘柄を集め、その英文をチェックしてみました。

「とりあえずビール」の中で繰りひろげられてきたもの

いざ始めてみるといくつかの困惑と直面しました。「とりあえずビール」と30年も何気なく言ってきましたが、「日頃よく買う銘柄」をカゴに入れていったら、あっという間に十数銘柄になってしまったのです。「酒にはこだわりがある」と自認していましたが、はたしてあるのでしょうか? さらに、大きな困惑に直面します。筆者は、英語を解さない、という事実です。そこは、インターネット上の自動翻訳サイトを複数使った上で、「我流」での意訳を試みることにしました。そのため、以下はすべて「強引な意訳」を伴う「個人の見解」ですのでご了承ください。

まずは「長い付き合いなのに、これまで意に介さず申し訳ない」という反省から、「キリンラガービール」「サッポロ生ビール黒ラベル」「アサヒスーパードライ」の3銘柄から見ていきましょう。

左:「キリンラガービール」。商品名に「ラガー」と入ったのは1988年から
右「サッポロ生ビール黒ラベル」は1980年代末の品質リニューアルが消費者に支持され、愛称として広まった「黒ラベル」が商品名となったもの

キリンラガービール

原材料名:麦芽(外国製造又は国内製造(5%未満)、ホップ、米、コーン、スターチ

アルコール分:5%

ORIGINAL QUALITY
The legendary KIRIN is a symbol of “Good Luck.”
Open up KIRIN today, and you’ll see what it is all about.

「オリジナルの品質。伝説の麒麟は幸運の象徴です。今日、その麒麟を開けてください。あなたは、そのすべてがわかるでしょう」

「ビールは苦い」というのが、昭和の頃の社会の共通認識です。ホップというビール独特の素材の持つ風味が、説明する上で分かりやすいからでしょう。しかし、日本のビールには、「すっきりしたキレの爽快感」という共通した特徴があります。ビールの製法は、大きく「ラガー」と「エール」に分けられますが、日本の大手メーカーの多くはラガーを採用し、これは「低温で長時間発酵」と説明されますが、ざっくり言うと酵母が下に沈み、下面発酵することからすっきりした味わいに仕上がるのが特徴です。ビールをキンキンに冷やしてグビグビ飲む。高温多湿の日本の夏には、冷たく清涼感を楽しめるラガーが適していたのです。その意味では、ビールは「苦い」よりも、飲んだ後の「スッキリ感」、仕事の後のリセット感こそが「幸せ」の実感であり、ビールの中に麒麟がもたらす「幸運」があるというのは、酔ってくるほどに納得がいきます。

サッポロ生ビール黒ラベル

原材料名:麦芽(外国製造又は国内製造(5%未満))、ホップ、米、コーン、スターチ 

アルコール分:5%

THIS PERFECT BALANCE BETWEEN MALT & HOPS
GIVES YOU A GREAT DRINKING EXPERIENCE
FROM THE VERY FIRST SIP TO THE LAST

「麦芽とホップが織りなす完璧なバランス。最初のひと口から最後まで素敵なお酒の経験ができます」

商品名に「生」と入る製法そのものが、当時、加熱処理されたビールが多い中で、黒ラベルの相性で知られる「サッポロ瓶生」が差別化に成功した理由でした。同社にも加熱処理したラガービールがあり、「赤星」の愛称で呼ばれています。ある意味、似た風味のラガービール全盛の中で、飲み手が「これ、何か違うぞ」と感じ、理由は分からないけど「あの黒いラベルのビール」として人気が定着。その「何か違うぞ」は、「原材料へのこだわり」が生だからこそ失われないのだと、ラベルから読み取れます。

左:1987年3月の発売以来、人気が続く「アサヒスーパードライ」
右:2019年1月に発売開始の新ジャンル「アサヒ 極上<キレ味>」

1980年代末から、ビール各社が、あらためて「ラガー」を強調したり、「生」で差別化をはかったりしたのには理由があります。1987年に発売が開始された「アサヒスーパードライ」の衝撃が業界を震撼させたからです。

アサヒスーパードライ

原材料名:麦芽(外国製造又は国内製造(5%未満))、ホップ、米、コーン、スターチ 

アルコール分:5%

THE JAPAN BRAND
ASAHI SUPER DRY IS BERWED USING CAREFULLY
SELECTED YEAST AND INGREDIENTS
UTILISING ADVANCED BREWING TECH-NIQUES.
ENJOY THE REFRESHING TASTE
AND SILKY SMOOTHNESS OF ASAHI SUPER DRY!

「アサヒスーパードライは厳選された酵母と原料を使い、高度な醸造技術を駆使して醸造されています。アサヒスーパードライのさわやかな味とシルクのような滑らかさをお楽しみください!」

最初と最後を商品名ではさみ、それこそが「THE JAPAN BRAND」と「!」を付けて言い切る。しかし、それだけのインパクトが1987年当時ありました。若者の間で居酒屋ブームが始まり、酒もよく分からないのに、「お。この店、スーパードライ置いてるの? 分かってるね。きっとつまみもおいしいよ」などと言っていたのは筆者自身です。

日本のビールの特徴は「苦味」よりも実は「爽快感のあるキレ」と前述しました。そこに「苦味」ではなく「ドライ」という言葉で印象を説明できることが画期的でした。実は多くの若者が「ドライ」がどういう風味かは説明できませんでしたが、その時に「高度な醸造技術」という単語を手にしていたら、きっと宴席でそれを語り出す「めんどくさい奴」になっていたでしょう。「DRY」で良かったのです。

この記事は「ビール」に限定し、「発泡酒」や「新ジャンル(いわゆる「第三のビール」)はなしにしたのですが、1点だけ「新ジャンル」の銘柄を取り上げます。

アサヒ 極上<キレ味>

原材料名:発泡酒(国内製造)/(麦芽、ホップ、大麦)、スピリッツ(大麦) 

アルコール分:5%

BREWED FROM QUALITY INGREDIENTS
AND BY OUR ADVANCED TECHNIQUES

「素材の品質と当社の高度な技術によって醸造しました」

メーカー側が「新ジャンル」とカテゴライズしても、メディアや消費者が「第三のビール」と呼ぶ市場では「ほとんどビール」としてのハイレベルな競争が繰りひろげられています。日本語では「麦100%・高発酵・冷涼ホップ等により当社最高レベルのキレを実現しました。」との一文を掲げ、そこに「ドライ」という単語を用いずにビールの本質である「キレ」を前面に出し、英文でその根拠を示す。個人的には、あの「スーパードライの新しさ」くらいの新鮮さを感じていたので、この簡潔明瞭さには納得。なので「ビール」ではありませんが、ご紹介をしました。

「ヱビスビール」。2010年には恵比寿様が鯛2匹を抱えている「ラッキー缶」が限定販売され、話題になりました。

ヱビスビール

原材料名:麦芽、ホップ 

アルコール分:5%

Rich and mellow premium beer brewed from
100% fine malt and select hops with
Sapporo’s traditional art.

「100%の上質な麦芽と選ばれたホップ、サッポロの伝統の技で醸造された、コクとまろやかさのプレミアムビールです」

メーカー名と商品名が地名だとあらためて気付きました。特に恵比寿は、ヱビスビールの工場があったあった場所が、後に地名になったという珍しい事例です。個人的には、「アサヒスーパードライ」のブームの後に、「ヱビスビール」の静かな再評価が始まったと記憶していましたが、中身の「生」化は1983年とのこと。「ビール」が銘柄ごとに異なるものだという消費者の新たな視線と「ヱビスビール」の主張とが数年かけて出会ったということでしょうか? 日本語では「バイエルン産アロマホップをふんだんに使用。麦芽のみを用い、熟成に時をかけて仕上げています。深いコク、豊かな味わい。ビールを知る人のビールです。」と詳細な説明もあります。英文と日本語に共通する「コク」という言葉は「ドライ」くらい個人差のあるものだとは思いますが、多くの人に「私にとってのコクはこれで納得」させる強い説得力があり、飲み手に自分を「ビールを知る人」と思わせるのに十分でした。

ビールの英文のメッセージは、意外と飲み手に届いている

左:「キリン一番搾り生ビール」
右:「キリン一番搾り〈黒生〉」

キリン一番搾り生ビール

原材料名:麦芽(外国製造又は国内製造(5%未満))、ホップ 

アルコール分:5%

Brewed from only the first press of genuine

malt for a crisp, delicious flavor.

「本物の麦芽の一番搾りのみを使用しており、新鮮な美味しさがあります」

キリン一番搾り〈黒生〉

原材料名:麦芽、ホップ 

アルコール分:5%

Brewing from only the first press of the most
delicious part of genuine malt extracts
a crisp flavor for your good times.

「本物の麦芽エキスの一番美味しい部分の一番搾りを醸造しているので、すっきりとした味わいで楽しい時間を過ごせます」

消費者からすれば「お酒の製法」というのは、なかなか縁遠い知識でもあり、さらに「麦芽エキスの一番搾り」がどのようなものかを理解するのは、かなりハードルは高いかもしれません。「一番搾り」の発売開始は1990年。体験の積み重ねから「一番搾り」は「美味しい」ビールと素直に感じているようです。2017年発売の「キリン一番搾り〈黒生〉」では、むしろ説明が長くなっています。「crisp」が自動翻訳ではいい言葉が当てはまらず、悩みます。経験的に知っている「一番搾り」の「あの感じ」が、日本語で表現できるようになるには、もう少し飲み続ける必要がありそうです。

左:「ザ・プレミアム・モルツ」
右:「ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム」

ザ・プレミアム・モルツ

原材料名:麦芽(外国製造又は国内製造)、ホップ 

アルコール分:5.5%

A premium pilsner beer, brewed with
selected ingredients and pride.

「厳選された材料と誇りで醸造されるプレミアムなピルスナービール」

「ピルスナー」とは前述の「ラガー=下面発酵ビール」のスタイルのことです。日本や世界のラガーの多くはピルスナーです。サントリーが麦芽100%使用のビール「モルツ」の発売を開始したのは1986年。当初は「モルツ」の特別仕様だったものが2000年代に入り製品化され、現在では「ザ・プレミアム・モルツ」が定番商品となっています。その後、発泡酒、新ジャンルが増える中、「プレミアム」「誇り」という言葉は、よりメッセージ性を強めているように感じます。

ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム

原材料名:麦芽、ホップ 

アルコール分5%

The Master Brewer’s dream brought to life.
An unprecedented harmony of heritage and innovation in Beer.

「マスターブリュワーの夢が実現した。ビールの伝統と革新の今までにない調和」

発売開始は2015年。ウイスキーには、風味を決定する「マスターブレンダー」という最高責任者がいます。「マスターブリュワー」とは、ビール醸造における「味の最高決定責任者」です。ビールの美味しさは、原材料、品質管理、造りのこだわりなど、日々進化しています。飲み手も「新しいもの好き」でありつつも1990年前後に生まれた銘柄のブラッシュアップを愉しんでいるようです。

「エール」という、ビールの美味しさの新しい流れ

左:「ザ・プレミアム モルツ 〈香るエール〉」
右:「エビス プレミアムエール」

ザ・プレミアム モルツ〈香るエール〉

原材料名:麦芽(外国製造)、ホップ 

アルコール分:6%

A premium ale beer with a fruity taste

「フルーティーな味わいのプレミアムなエールビール」

ヱビス プレミアムエール

原材料名:麦芽、ホップ 

アルコール分:5%

Luxuriously lasting flavor and aroma from
The Ale only Yebisu can produce.

「豊かな風味と香りが持続する、ヱビスだけが製造できる『エール』です」

これまで日本のビールの大半は「ラガー」であり、そのスタイルは「ピルスナー」。一言でいえばスッキリとした清涼感。言葉で表せば「クーッ!」と声が出るアレです。ところが近年、それとは異なる味わいも愉しめるようになってきました。「下面発酵」に対して、酵母が浮いてくる「上面発酵」のビールを「エール」といいます。醸造時間が短く、香りが華やかで、味わいも複雑。銘柄ごとの個性が際立ちます。小さな醸造所のクラフトビールの人気が高まり、「違い」や「香り」を愉しむ飲み手が増えました。大手ビールメーカーもそこに照準を合わせた「エール」に発売。英文も「香り」と「エール」に絞り込んだ明確な内容です。

たぶん、「飲んで感じたこと」が書いてある

左:キリンの「ハートランドビール」。ビンはリターナブルビン
右:「オリオン生ビール」

最後に個人的には「定番」の二銘柄をチェックしてみました。

ハートランドビール

原材料名:麦芽、ホップ 

アルコール分:5%

IN EVERY SPIRIT & EVERY
SEASON’ EVERYWHERE
BEER

「すべての精神と季節、どこであっても、ビール」

発売開始は1987年。キリンでは「キリンラガービール」に次ぐロングセラー。発売開始当初の希少性と、飲んだときの感激が染みついた50代前半がコアな顧客層ではないかと、周囲を見渡すと感じます。「ハートランドしか飲まない!」というファンが、あちこちにいて、それに対応するお店が常備するので、「たまに飲みたくなる」筆者も、「飲みたいときに買える」のだと勝手に感謝しています。まさにいつでもどこでも「ハートランド」なファンのスローガンのような一文です。

オリオン生ビール

原材料名:麦芽、ホップ、米、コーン、スターチ 

アルコール分:5%

ORION DRAFT BEER`S CLEAR MILD TASTE IS
WIDELY LOVED AS AN OKINAWAN ORIGINAL

「オリオン生ビールのすっきりとしたマイルドなテイストは、『沖縄の味』として愛されています」

90年前後まで「オリオンビール」を語るのには、ちょっとした特別感がありました。沖縄に行って飲んだことがある。まだ数の少なかった沖縄居酒屋を見つけて、「これこれ」と語る。その後、デパートで沖縄物産展が増え、コンビニでも買えるようになり、気付けば誰もが飲んでいる「定番のビール」になったかのような印象もありましたが、「OKINAWAN」の文字が、「何も変わってないよ」と語りかけてくれるようです。

こうして見ると、日々その日の気分で選んでいる定番の銘柄のビールも、その英文の中には、それぞれの銘柄の差別化につながるメッセージが隠され、それを読んでいない飲み手も知らず知らず、しっかりとそれを受け止めてきていたのかなと感じます。実は、読まなくても、飲み手が感じたものが書かれているはず、と思っていてもいいのかもしれません。「ビールは裏切らない」。すべての英文がそう読めます。

いつでもおいしいビールですが、特においしい季節がやってきました
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