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モータースポーツの最高峰、F1世界選手権。世界中を転戦する中で、「モナコグランプリ」や「シンガポールグランプリ」など『公道レース』も組み込まれていることでも知られています。残念ながら日本ではこれまで開催された例がありませんでした。それが今、その実現へ向けた動きが出てきています。2025年、万国博覧会が大阪湾に浮かぶ人口島「夢洲(ゆめしま)」で開催されることが決まり、その跡地利用の一環としてF1公道レースの開催構想が浮上しているのです。その実現度を検証してみました。

2025年の万国博覧会の招致に成功した大阪市の夢洲。現在はそのあとの利用法に注目が集まっている

万博、カジノ、そしてF1公道レース。夢洲が目指す正夢

夢洲は1977年、大阪市の廃棄物や建設残土の処分場として整備が始まりました。当初は6万人が住む新興都市を整備する計画でしたが、バブル経済の破綻によってあえなく頓挫。2008年の夏季五輪誘致にも失敗して数千億円の投資は無駄遣いだったとまで揶揄される状況にあったのです。

そんな夢洲に光が差し始めたのが万国博覧会の開催決定でした。万博は各パビリオンで盛大なイベントが開催される計画で、来場者は2,800万人を想定するなど、その規模は過去最大級になると見られています。

ただ、問題となるのは開催後の跡地利用についてです。大阪府の松井一郎知事は、万博終了後はその施設を活かした統合リゾート施設を建設する計画を立て、賛否はあるものの、カジノができる“特区”としての実現も目指しています。公道レース計画もその一環として構想に含まれており、カジノで集客した外国人観光客にもレースを盛り上げてもらうことを想定しているのです。

実は夢洲には公道レースを行うための条件が揃っていると言われています。これまで日本でも公道開催の構想はいくつもありました。神奈川県の熱海、千葉県の幕張、東京都のお台場エリア……。しかし、レース開催に地元の警察が許可を出すことはありませんでした。その最大の理由は、住民への影響を踏まえてのことが大きいと思われます。

この点、夢洲は現状で誰も住んでいません。つまり、生活圏と隔絶された敷地であるため、夢洲全体をクローズドしてしまうことも容易です。さらに道路設備もこれから整備するので、レースの基準に合わせて作ることが出来ますし、仮設スタンドやフェンスなどの設置などでも十分な安全対策も取りやすいでしょう。

公道レースが地元の「暮らし」も変える

公道レース開催が決まれば一般利用者にとってもメリットが生じます。F1期間中、国内外から約20万人もの人が観戦に訪れます。世界中から観光客が集めるとなれば、グローバルで受け入れられるインフラの整備も進むようになるはずです。広々とした歩道、隅々まで行き届いた照明やバリアフリー化に加え、リゾート気分たっぷりの街並みが整備され、そこにいるだけで心地良さを感じられるようになるでしょう。世界一の綺麗さと言われるトイレも日本流のおもてなしで準備されれば利用者にとっても便利さはさらに増します。

シンガポールGPの市街地コースは、国会議事堂前など、街の中心地に設置。開催期間前からは、仮設スタンドやコースとなる道路に大きなフェンスが設置。開催1週間ほど前からクルマはもちろん、徒歩でも立ち入りは制限される。今年は初開催から11年目を迎え、シンガポールを代表する一大イベントとなった

さらにカジノも想定され、外国人が多数訪れるとなれば治安の維持も重要です。そのために、警備も強化されて安全な街作りが進められることになるでしょう。道路設備は日常的に整備され、走りやすさだけでなく、安全設備の充実で事故が起きにくい環境も提供されるのは間違いありません。つまり、公道レースの開催は道路の閉鎖など一時的な不便さは伴いますが、周辺住民にとってそれ以上のメリットがもたらされるのです。

世界的に知られるカジノの街、ラスベガスも1980年代にF1公道レースが開催された。多くの外国人観光客も集客。今やラスベガスは全米でもトップクラスの治安の良い地域となっている

ニッポンを世界中のモータースポーツファンヘアピール

そして、公道レースの開催が実現するとその効果は計り知れないと言われています。仮に夢洲に世界選手権クラスのメジャーレースの誘致に成功すれば、その中継映像が全世界に配信され、夢洲が目指すカジノを含む統合型リゾートの街の様子が世界中で映し出されるからです。ここがサーキットで開催するレースとの決定的な違いです。

これで世界有数の自動車産業を抱える日本として恥ずかしくないレースが運営できれば、日本に対する見方を変える人も出てくるでしょう。レース車両の開発でも世界の第一線で活躍を見せていながら、高級車ではなかなか日の目を見ない日本車へ対する見方を変えさせるチャンスでもあるのです。

つまり、公道レースを開催することで日本に対する印象を大きく変え、それは外国人観光客のさらなる誘致だけでなく自動車産業にとってもプラスとなる可能性を秘めているのです。特に外国人観光客の増加は、2030年に6,000万人の訪日外国人観光客を目指す政府にとっても良い話となるはずです。

ここで懸念されるのがF1には2007年以降、「1国1レース」の原則があることです。2016年にアメリカの「リバティ・メディア」がF1を買収したのに伴い、その原則が一旦は崩れる可能性も出てきたのですが、諸問題が浮上して現状ではそれは実現しないまま。それどころか、思うようにいかないF1の運営を目の当たりにしたリバティ・メディアが、早くもF1の売却を検討し始めたとの報道もされるようになりました。つまり、なかなか1国1レースの原則は突き崩すことは難しいというのが現実なのです。

日本ではどうでしょう。一時は富士スピードウェイと鈴鹿サーキットで隔年開催が予定された時期もありましたが、結局は2010年以降、鈴鹿のみで開催されてきています。

ということは夢洲で開催するには開催の権利を鈴鹿から譲ってもらうしかありません。しかし、すでに鈴鹿は多くのファンから日本における“F1の聖地”として親しまれており、その状況を踏まえれば、夢洲でのF1開催は相当ハードルが高いと考えるのが妥当でしょう。

モータースポーツ発祥の地、イギリスでは、小さなサーキットが点在し、多くのレースが開催されている。写真はロンドン郊外の街で開催された、クラシックカーだけのヒルクライムレース(小さな丘を登るタイムを競うレース)。駐車場は牧場。入場券も格安で、みなピクニック感覚でビールを飲みながら観戦。生活に密着した和やかな雰囲気がある

電気自動車専用レースにも注目

そこで、その代替案となりそうなのが「フォーミュラE」です。これは化石燃料を使わない「電気自動車のF1」と呼ばれる新たな競技で、2014年9月より開催されているものです。マシンは電動モーターで走るため、当たり前ですがエンジン音はしません。そのため、レース開催中はBGMを流すなど、従来のモータースポーツとはまったく違う環境となり、それには賛否があることも事実。ただ、世の中の流れが電気自動車になりつつある今、この分野でのレースを極めるという選択肢もあっていいと思います。

フォーミュラEにはアウディやBMWiなどが参戦し、日本からはパナソニックがジャガーと組み、今シーズンからは日産も参戦しています。レギュレーションも変更されてモーターの出力を大幅にアップ。特にマリオカートを参考にしたと言われる“アタックモード”が決勝レースに設定されて最高速度が一気に高まるなど、フォーミュラEのレースとしての面白さは確実に高まっているのです。

「EVに乗り遅れた」とあちこちで言われ続けている日本が、このレースをテコに“名誉回復”へとつなげられる可能性だってあります。「フォーミュラE」を日本が中心となって推進していくことで、“21世紀のレース”として新たな価値を創造できるチャンスでもあるのです。

騒音が少ないことが、モータースポーツとして物足りなさを指摘されることもあるフォーミュラE。しかし、加速力はF1カー以上とも言われ、次代の主役を目指す
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この記事の執筆者
会田 肇 カーライフアドバイザー

あいだはじめ/HAJIME AIDA

1956年茨城県生まれ。明治大学政経学部卒。自動車誌の編集者として勤務後、1987年よりフリージャーナリストへ転身。自動車メディアを中心にカーナビをはじめとするカーAVを中心とした取材、執筆に従事する一方で、ビデオカメラやデジタル系ガジェットの批評活動を続けている。現在、デジタルカメラグランプリの審査員も勤める。好きな音楽を聴きながらドライブするのが好きで、これがクルマからカーオーディオ、カーナビ、ひいてはITSにまでその関心は及ぶ礎となった。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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