マンションは二重床工法がおすすめ? メリットとデメリットは?

マンションの購入を検討するときに、多くの人が気になるのが音の問題でしょう。二重床にすれば足音などの生活音を防ぐのに効果的だと言われることも多いようです。しかし、実は必ずしもそうとは限らないことをご存じでしょうか。二重床が具体的にどのような構造をしていて、どんなメリット・デメリットがあるのかについて詳しく説明します。

マンション暮らしのトラブルで多い騒音

国土交通省がまとめた「平成25年度マンション総合調査」によると、過去1年間に発生したトラブルで最も多くを占めたのは「居住者間の行為、マナーをめぐるもの」で、全体の55.9%にも及んでいます。その具体的な内容としては「生活音」が 34.3%と最も多い結果でした。マンション暮らしでのトラブルとして、最も多いのは「騒音」なのです。

上の階の床を通して聞こえてくる足音や、子どもが飛び跳ねる音などは、建物の構造によっては大きな音になって下まで響いてしまいます。わざと大きな音を出しているわけではなくても、生活音は日常的に聞こえる音ですから当事者にとっては深刻な問題です。これが原因で訴訟に及んでしまうケースもあります。

床から伝わる騒音その1-重量床衝撃音

床を通して音が聞こえるということは、人が歩いたり物を落としたりしたときの床への衝撃が振動となって伝わっているということです。このような音のことを「床衝撃音」と呼び、中でも子どもが飛び跳ねたり椅子を引いたりしたときに生じる、鈍くて低い音のことは「重量床衝撃音」と言われます。床衝撃音は、建物の構造をはじめ、床の材質などによって伝わりやすさが違ってきます。コンクリートのような固くて重い材質のものが使われている床ほど、重量床衝撃音は伝わりにくくなり、遮音性が高いです。

床の遮音性の高さを示す指標として「遮音等級」があり、これを「L値」という数値で表します。L値は小さいほど性能が高く、床衝撃音が伝わりにくいという意味です。「L-40」は、上の階の物音がかすかに聞こえますが気にならない程度の性能と言えます。「L-50」では、上の階で人が歩いたり椅子を引いたりする音が聞こえるなど、生活している様子がわかる程度の性能です。また、重量床衝撃音に対する遮音等級を示すL値は、「Heavy-Weight(重量)」の頭文字をとって「LH-40」や「LH-50」のように表します。

床から伝わる騒音その2-軽量床衝撃音

スリッパで歩くときや、スプーンなどのような軽いものを床に落としたときに生じる軽くて高い音を、床衝撃音の中でも「軽量床衝撃音」と呼びます。軽量床衝撃音に対する遮音性能は、床の表面に吸音性が高い材質のものが使われているほど優れています。フローリングや石貼りの床よりも、畳やカーペット敷きの床仕様のほうが高い遮音性能を有しています。また、軽量床衝撃音の遮音性能は床の構造によっても変わります。直床よりも、二重床になっているほうが遮音性能が高くなるのです。遮音等級を示すL値は「Light-Weight(軽量)」の頭文字をとって「LL-40」や「LL-50」のように表します。

このように、重量床衝撃音と軽量床衝撃音では、遮音性能を高くするためのポイントが異なります。建物の構造や材質によって、聞こえやすい音と聞こえにくい音があるということです。軽量床衝撃音を伝えにくくするには、「二重床工法」が有効です。

二重床とは?

鉄筋コンクリート造りの建物の、上の階と下の階を区切るコンクリートの床部分のことを「コンクリートスラブ」と呼びます。マンションでは、コンクリートスラブの上に床材などを用いて内装を作り、居室を仕上げることになります。「二重床工法」は、コンクリートスラブの上に防振ゴムでできた支柱を立てることによって、土台から離して床の内装を作る工法です。コンクリート部分と内装部分の間に空間ができることで、床が二重構造になるのです。

二重床の構造にすることで、軽量床衝撃音は伝わりにくくなります。重量床衝撃音については、二重床かどうかには関わらず、コンクリートスラブ自体の厚みによって遮音性能が変わります。建物の土台のコンクリートスラブに十分な厚みを持たせた上で二重床工法を施すことにより、重量床衝撃音と軽量床衝撃音の両方を抑えることができるようになるのです。

直床との違い

コンクリートスラブの上に、フローリングなどの床材を直接張る施工方法を「直床工法」と呼びます。直床工法では、コンクリートと内装の間に空間ができません。最近の建材の中には直床工法でも「LL-40」を確保できるものがあるため一概には言えませんが、一般的には二重直床工法のほうが直床工法よりも軽量床衝撃音の遮音性を確保しやすい傾向があります。

一方、重量床衝撃音については、コンクリートスラブの厚さで遮音性能が決まるため、どちらの工法でも違いはありません。ただし、詳しくは後述しますが、場合によっては直床よりも二重床のほうが、騒音が気になってしまうケースもあるため注意が必要です。

二重床のメリット

二重床工法には、騒音を抑える以外にも大きなメリットがあります。土台と内装との間に空間ができるため、配管工事がしやすいのです。これは、リフォームの時に効果を発揮します。たとえばキッチンの位置を変えたい場合やガスのコンセントを増設したい場合など、配管の移動が必要な場合でも二重床になっていれば対応しやすくなります。今すぐリフォームする予定がなくても、あらかじめ二重床になっていれば、将来的に間取りを変えたくなった場合にも安心です。

また、配管設備はメンテナンスが必要なものでもあります。内部に詰まりが生じたり、配管自体の経年劣化で交換が必要になったりした際には、二重床になっていれば修繕工事を行いやすくなります。二重床は土台からある程度の高さを設けてあるので、点検口を作っておくことで日頃の掃除なども簡単になります。

さらに、二重床工法は土台から内装までの高さを調節できるというメリットもあります。これにより、コンクリートの土台の高さが部屋ごとに違っても、内装の高さを揃えてバリアフリーにすることができます。実際に、二重床仕様のマンションはバリアフリーになっていることが多いのが特徴です。

二重床のデメリット

重量床衝撃音の遮音性能については、二重床工法でも直床工法でも変わらないということを述べました。しかし、ケースバイケースではありますが、直床のほうが二重床より重量床衝撃音の遮音性能が優れることもあります。これは、二重床工法には良し悪しがあるということです。二重床の場合は、床の上で飛び跳ねるなどして大きな衝撃が加わると、その振動が空気を通して広い範囲に伝わります。これがコンクリートスラブに伝わると、直床の場合よりも音が伝わりやすくなってしまうのです。この現象を、和太鼓などを叩いたときの振動が反対側に伝わる様子に例えて「太鼓現象」と呼びます。

太鼓現象は、土台と内装の間の空気に逃げ場がない場合に起こる現象です。この場合、重量床衝撃音は「ドスン」という重低音になって下の階に響いてしまいます。空気の逃げ道が確保されていれば、太鼓現象が起こらないため遮音性能がよくなります。比較的新しい二重床の工法では、床と壁との間に空気の通り道を作ることによって太鼓現象を緩和させています。

また、二重床は土台よりも内装を高くしているため、その分だけ天井が低くなります。もともと直床だった物件を二重床にリフォームしている場合には、天井の高さに注意したほうがよいでしょう。新築物件の場合は、はじめから二重床の分を計算に入れた設計になっているので、天井が低くなるということはありません。

二重床はリフォームを考えている人におすすめ!

マンション暮らしでは、騒音に配慮する必要があります。二重床は、軽量床衝撃音の遮音性能が高い工法です。また、二重床には床下の配管設備の移動やメンテナンスが行いやすいなどのメリットもあります。マンション購入後にリフォームをしようと考えているなら、二重床仕様の物件がおすすめです。

一方で重量床衝撃音に関しては、太鼓現象に配慮した比較的新しい工法をもってしても、未だ課題があるのが現状です。また、住戸の遮音性は床の工法だけでなく、壁(躯体)の音伝導率も重要な要素となっています。たとえば上階の3・4軒隣の住戸と音や、共用廊下の音が躯体を伝搬して伝わる騒音も存在するのです。くわえて、新築時にどんなに遮音性が高い住戸であったとしても、経年劣化によって遮音性が低下していくこともあります。そのため、マンションでは原則として「完璧な遮音」は難しいことを考慮しておく必要があるでしょう。

(最終更新日:2019.10.05)
※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
~こんな記事も読まれています~

この記事が気に入ったらシェア