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2019年1月15日、東京都多摩市に「長谷工マンションミュージアム」がオープンしました。名称の通り、集合住宅・マンションに関する専門のミュージアムです。マンション購入を意識してまずすることは、パンフレットなどの資料収集、モデルルーム見学、現地内覧ツアーへの参加など。でも知れば知るほど目移りして何を基準に判断すれば迷ってしまうものです。そうした人にこそお勧めしたいのが、このミュージアムです。展示を観終わった後には、「ここにこだわりたい」という自分なりのマンション観を語りたくなります。いったいどんな展示なのか、その一部をご紹介します。

知っているようで知らないマンションの「見方」が見えてくる

施設は長谷工グループの創業80周年事業の一環としてオープンした「長谷工テクニカルセンター」内にあります。ここには、ミュージアムの他、同グループの技術研究所、研修センター、自社保有物件の総合監視センターが併設されています。館内案内は飛び出す絵本。立体物へのこだわりを感じます

多摩ニュータウンは1960年代、都心の住宅難解消のために開発がはじまった国内最大規模のニュータウンです。その拠点地区として商業・ビジネス施設が集中する「多摩センター」には、小田急線、京王線、多摩都市モノレールの駅があり、都心や立川などからのアクセスも容易です。サンリオピューロランドの所在地としても知られています。しかし、これから家探し、マンション探しを考えている人には、縁遠い場所だったかもしれません。──今までは。

長谷工マンションミュージアムの概要

鉄道・モノレールの各「多摩センター駅」から徒歩約12分。「長谷工マンションミュージアム」は、事前予約制です。日に5回、1回8名までのグループでガイドスタッフによる約90分間の見学コースが設定されています(無料。詳細は文末のサイトへのリンクでご確認ください)。オープン後から盛況で、見学予約は常にいっぱい。余裕のある予定と早めの予約をお勧めします。今回は、通常の見学コースと同じ内容で体験しました。

見学できる展示エリアの内容

ミュージアム内は、9つのエリアに分かれ、内7つがテーマごとの展示エリアになっています。記者は当初「90分」と聞いて「長い」と思いましたが、結論から言えば「時間が足りない、もっと見たい」と思いは変わっていました。それほど内容の濃い、それ以上に展示する側の思いが熱い内容です。

最初のエリアは、360度シアターによる映像体験。テーマは「集合住宅の成り立ち」ですが、「人類誕生」からスタートします。記事タイトルの画像はその中盤、まだ「ローマ帝国」です。このミュージアムは、いろいろな意味で「要約」が難しいことを実感するオープニングに圧倒されます。

映像体験はもう1つ。コース中盤の「まるごとマンションづくり」のエリアにVR体験コーナーが用意されています。内容は「大規模マンション建設の3年半を約3分30秒で疑似体験する」というもの。マンション建設ということで見上げる・高い場所等のヒヤヒヤ感を想像し身構えましたが、映像はいきなり地上建設工事開始前の地下深くへ。地面の中の巨大な空洞に鉄柱枠が組まれ、コンクリートが注ぎ込まれます。「場所打ち杭工法」により地盤に届く杭基礎が作られる瞬間です。

「『既成杭工法』と呼ばれる巨大な杭をハンマーで地面に打ち付ける音と振動を知っている世代の方は、『そういえば、最近静かなのはこういうことか』と驚かれます。この杭の方がより確実に地盤に届くんですよと説明させていただくと、さらに納得もされます。もっとも私たちも地下深くで、杭打ちが実際にはどうなっているのかは、このVRで始めて見たので実はお客さまと同じ驚きを感じています」(長谷工コーポレーション・広報担当者)

「『まるごとマンションづくり』エリアの展示では、これから家探しをされている方はもちろん、長くマンション住まいをされてきた方々にも、住まいへの関心をあらためて持っていただければと思い、知識・技術を分かりやすく展示しています」(長谷工コーポレーション・広報担当者)。設計段階から施工まで、普段目にすることがないマンションづくりの技術と「現場の熱意」が体感できる内容です。建設現場の再現展示(写真右)では、女性の現場監督の活動も紹介しています
先にVRで基礎から建設、内装仕上げ、完成までを一覧するので、専門的・技術的な展示も見やすい。今、VRで見たばかりの知識で「これが基礎の杭ですね」と、知ったかぶりもしたくなる

「マンションの魅力を伝えたい」が溢れる熱い展示

日本における現代につながる集合住宅・マンションの歴史は、関東大震災後の復興住宅として建てられた同潤会アパートから始まるそうです。そうした歴史をひもとく年表のパネル展示、阪神淡路大震災を機に一層の努力が払われた安全安心面での技術開発、より快適な住空間を構造設計から見直した最新の施行技術…。

マンションづくりに込めた思いを伝えたい

展示はどれも専門的でなおかつ詳しい内容です。記者は、個人的趣味で博物館・資料館を多く観てきましたが、「本物」を展示しつつ、説明は最小にとどめ、手短に「入口を体感」できる「観やすいミュージアム」が増える中、「長谷工マンションミュージアム」はそれらとは異なる印象を受けました。

同ミュージアムの江口均館長は、自身も設計畑の中心。「何を見せるか」と腐心した中には、マンションづくりに込めた現場の思いもあったと語ります。

「当館は、長谷工グループ創業80周年事業の一環です。自社関係だけでなく、“日本の”とすることには、おこがましいかもしれないという躊躇もありました。しかし、自然環境、過酷な災害から復興させ、家族や地域がより良く暮らすために発展してきた集合住宅・マンションのこれまでの歴史は業界で共有すべき財産です。そこに込めた思いに違いはない。私たちのマンションづくりに込めた思いを、これまで住んでいただいた方、これからを検討されている方に知っていただきたい。そうした思いから、このような展示となりました。お陰さまで、一般の方、同業他社や協力会社の方々からも大変好評です」(江口館長)

左:江口均館長。背景は、長谷工の次世代マンション「Be-Next」のリビングとバルコニーの再現展示で、梁を居室外に儲ける新設計で空間の広がりとデザインの洗練を実現しています。右:人物やインテリアも再現した精巧な模型を使い、完成イメージを確認するための専用スコープ。江口館長が現役設計士時代に使われていたもので、手元から覗きこむとリアルな生活空間が広がります。「アナログVR体験」ができる道具です。「お客さまが納得するものを図面段階から積み上げていく。その時代の熱意も伝えたい」(江口館長)
同潤会アパートに始まる日本の集合住宅・マンションの歴史を説明する年表展示エリア。館内のさまざまな展示に、来館者は足を止め、昔の生活を懐かしく語り、今の技術に驚く。そして「もう1回、ゆっくり見に来たい」と言うそうです

見て、聞いて、気付けばマンションについて語りたくなる

1970年代からのマンションのパンフレットを展示。長谷工グループ各部署から集めた1,000点の中から100部を展示。「社内的な資料ですし、この展示はサッと通り過ぎると予想していましたが、意外に多くの方が足を止めて1つずつジッと見ていきます。時代時代のライフスタイルの提案が詰まっていて懐かしむ人、紙面デザインの個性に驚く人など、今では当館イチ押しの展示です」(江口館長)

館内には、70年代に建てられたマンションで実際に使われていたインテリアや建材を使った室内再現や、ITやインフラ企業とコラボレーションした未来のマンション生活のシミュレーション、既存マンションの耐震化やリノベーションのための技術説明など、ここでは紹介しきれないまだまだ多彩な展示がなされています。出口で感じる「90分では、時間が足りない」は、大げさではない実感です。取材時は、オープンしてまだ1ヶ月弱。館内展示は、これからも試行錯誤を重ねながら進化させていくそうです。

家探し・マンション探しの前後に行くべき場所に

マンション探しの際に、知識があった方が良いとは誰もが思うもの。でも、その知識とは何を指すのかはなかなかわかりません。でも、ここを見学し、説明を聞き、本物を見て、驚き考えるうちに自然と声が出て来ます。マンションに関して自分なりに「語りたい話」がいつの間にか自分の中に生まれています。それを持ち帰れば、次にマンションのパンフレットを見た時、モデルルームを見に行った時も何かが語れることでしょう。

「もう1つ」と江口館長は言います。来館者の中には、マンションを購入したばかりの人もいて、「来て良かった。自分の買ったマイホームが、どれだけいい物か、見えない所まで分かって得した気分です」と言ったそうです。買う前に見る、買った後にも見る。多摩センターの「長谷工マンションミュージアム」は、家探しをする人が1度は行きたい場所になりそうです。

<取材協力>
長谷工マンションミュージアム

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