引っ越し時のモヤモヤ「原状回復費用」は払う必要ある? 2020年に法改正へ

賃貸住宅の退去時に、貸主から請求された原状回復費用をそのまま負担した経験はないでしょうか。転居先での新生活の準備に忙殺される時期と重なったり、トラブルを避けるために、そのまま支払ってしまいがちですが、借主が負担すべき原状回復費用は全額ではありません。どんな費用を負担しなければならないのでしょうか。

トラブル多発の原因は定義の”あいまい”さ

2017年度に国民生活センター等に寄せられた賃貸住宅の敷金や原状回復に関する相談件数は13,000件あまりにのぼります。借主が賃貸住宅を退去する時に、ハウスクリーニング、クロスの張替え、畳表やふすま、障子の張替え等の原状回復費用として、高額な費用を貸主から請求され、敷金が返金されなかったり、敷金を上回る金額を請求されてトラブルに発展する場合があります。

賃貸住宅の敷金や原状回復に関するトラブルが後を絶たない背景のひとつに、「敷金」と「原状回復」の法律上の定義がされていないことがあげられます。

一般的に、敷金は賃貸住宅に入居する際に、借主が家賃の1~2ヶ月分の金額を貸主に預けるものですが、どんな用途で使われるのかが明確になっていません。

原状回復の費用負担に関しては、部屋を借りる前の状態に戻すために必要な修繕費用をすべて借主が負担するのか、あるいは、借主の故意や過失によって汚したり壊したりした部分の修繕費用のみを借主が負担すればよいのかがあいまいです。そのため、貸主と借主の認識が異なって、いろいろなトラブルに発展するケースがあります。

トラブル回避に役立つ公的な資料

トラブルの防止と円滑な解決のために、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表し、原状回復にかかる契約関係や費用負担等のルールのあり方を明確にしています。このガイドラインでは、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意、過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義して基準を策定しています。


つまり、建物や設備の自然的な劣化・損傷等(経年変化)や、借主の通常の使用による損傷等(通常損耗)の修繕費用は貸主が負担すべきであり、借主の故意や過失など通常の使用を超える使い方による損傷等の修繕費用のみを借主が負担すべきであるとしているのです。

貸した人・借りた人の修繕の分担

 

 

(国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」より抜粋)

ガイドラインは、1998年に公表されて以降、新しい裁判例の追加や見直しを経て、2011年8月に「再改訂版」が公表されています。

貸主と借主がこのガイドラインに沿って賃貸借契約を締結し、入居時と退去時に損傷の有無、損傷の箇所・程度など具体的な物件の確認を十分に行えば、トラブルや借主の不満を未然に防ぐことができるでしょう。

しかし、このガイドラインは一般的な基準を示したものであり、現時点で法的な拘束力があるわけではありません。これに沿った賃貸借契約をしなければならないわけでもありません。ただし、民法や消費者契約法などの法令に抵触する不当な内容は無効になり、また、これまでのさまざまなトラブルの裁判例によって定着した考え方などもあります。

したがって、退去する時には、貸主から請求される金額をそのまま支払うのではなく、退去する前に改めて契約書の内容を確認したり、退去時に貸主に対して、ガイドラインに沿った原状回復費用の分担を求めてはいかがでしょうか。貸主が負担する金額が減る可能性があります。

なお、東京都は「賃貸住宅紛争防止条例」を制定し、住宅の賃貸借契約に伴ってあらかじめ明示すべき事項を定め、「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」を 平成30年3月に公表しています。

2020年の法改正で敷金、原状回復ルールが明確化

2017年5月に可決・成立した改正民法が2020年4月1日に施行されます。これによって法律に敷金が定義され、原状回復ルールも明確化されました。

敷金については、家賃の未払いや、借主の故意・過失等による損傷等の修繕費がない限り、退去時に原則として全額借主に返還されることになります。原状回復については、建物や設備の経年変化や、借主の通常損耗による修繕費用は、借主に負担義務がないことを示しています。

これまでに紹介した国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や東京都の「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」に沿った内容ではありますが、基本原則が法律に明記されたことにより、原状回復の費用負担に関わるさまざまなトラブルの防止が期待されます。

なお、法律によってこれまであいまいだった部分が明確になったとしても、トラブルを防止するためには、入居時と退去時に貸主と借主が立会いの上、損傷の有無や程度などを、チェックリストなどを活用して具体的に確認することが大切です。

当事者間の認識差を少なくするために、損傷箇所の状況を図面に記入したり、写真を撮っておけば、トラブルが発生した時の早期解決にもつながりますので賃貸物件を借りる際は、意識しておきましょう。

(最終更新日:2019.10.09)
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