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2018年は大きな自然災害が頻発して、各地で停電や断水といったインフラ被害が起きました。そこで注目されたのが、エネルギー自律型の住宅です。太陽光発電+蓄電池を備えた住宅は、このエリアが停電しても自宅では最低限の電力を確保しながら、生活を送ることができるといいます。

多くの場合、エネルギー問題は大きな課題として挙げられながら、その抜本的な解決策はまだ見出されていません。より安全、より効率的なエネルギーシステムの確立を目指して、多くの企業や研究機関で研究開発が進められています。本記事では、最先端のエネルギーシステムやその導入事例などを紹介していきます。

今回は、大和ハウス工業が堺市で実践している「ZET(ゼロ・エネルギー・タウン)」の「スマ・エコタウン晴美台」を取材しました。

各地で課題となっている「ニュータウン再生」がスタート

「スマ・エコタウン晴美台」は、統廃合となった小学校があった場所に、2013年に開かれました。堺市が「晴美台エコモデルタウン創出事業」を公募し、大和ハウス工業が選定されたのがきっかけです。

堺市が提示したのは
・低炭素なまちづくりの実現・環境に配慮したライフスタイルの確立
・泉北ニュータウンの再生モデルとなること
・環境技術の進歩に寄与すること
です。

「堺市は、室町・戦国時代から自治が根付いた街なので、その伝統を継承して住民自らがつくり上げる新たな『まち』を目指しました。大和ハウス工業では、ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス=ゼッチ)を開発していたので、それをさらに進めたZET(ゼロ・エネルギー・タウン)を目指しました。ポイントは、『消費エネルギーより創出エネルギーを多くすること』『住民の自治によって「まち」が運営されること』災害に強く、レジリエンスな(適応力がある)「まち」にすること』です」(大和ハウス工業開発部 まちづくりマネジメントグループ・濱崎孝一さん)

各住宅はより多くの太陽光を受けられるように、南側の屋根が大きく取れるように設計されています

太陽光発電&蓄電池で、日常にも非日常にも対応

今回は、もろもろの条件を満たすために、すべて建売での販売になりました。全部で65棟あるうち、オール電化が20棟、ガス併用が45棟になっています。

ZEHの基本的なシステムは、「太陽光パネル」「蓄電池」「HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)」の3つです。

(参考)

ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス=ゼッチ)の基本的なシステム
【1】太陽光パネル
【2】蓄電池
【3】HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)

エネルギー効率を高めるためには、住宅そのもののつくりにも工夫が施されています。

大きな太陽光パネルを設置するため、大きな屋根が南西方向に向くように設置。また、壁の断熱性能をアップさせたり、窓には赤外線をさえぎる遮熱スクリーンを設置したり、生活する上でのエネルギーロスをできるだけ抑える設計になっています。

【エネルギー効率を高める工夫例】

エネルギーロスをできるだけ抑える設計例
屋根を南西方向に向くようにし、太陽光パネルを設置
壁の断熱性能を向上
赤外線をさえぎる遮熱スクリーンを設置

発電した電気は、各住宅に設置された6.2kWhのリチウムイオン蓄電池に蓄電されます。そのうち、日常的に使えるのは7割まで。残りの3割は、非常時のために備蓄する設定になっています。

万が一停電になると各家庭の回路が切り替わり、エアコンや給湯器へは電気を供給せず、生活に欠かせない台所や冷蔵庫、トイレなどにだけ供給されるようになります。

災害時には、日中は発電した電気をそのまま使い、夜間は蓄電池の電気を使うことで、それまでの日常とあまり変わらない生活を続けることができます。オール電化住宅は、停電時に弱いという側面がありましたが、太陽光発電と蓄電池によってその欠点がカバーされています。

HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)は、各家庭でどのくらいエネルギーを消費しているか、どのくらい作り出せているかがわかるようになっていて、タブレット端末で確認できます。蓄電池の充電量や放電量、どのくらい電気が残っているかなどもビジュアル的に見ることができます。

集会所にも同じ仕組みがあり、街全体のエネルギーを見える化する「SMA×ECOクラウド」が導入されています。街全体でどのくらいエネルギーを消費し、つくり出しているかのエネルギー効率がわかるようになっています。年間を通してその効率を見てみると、天気も気候も安定し、快適な5月が最も高く、反対に日照時間が短く暖房なども使う12月〜2月の冬場は最も低いという傾向もわかってきました。

また、各家庭の省エネルギー貢献度もランキングされていて、住民の省エネルギーに対する意識向上に繋がっているといいます。

(右2つ)ガス併用住宅に設置されるコージェネレーションシステムの「エネファーム」。ガスを使って発電と給湯を行う装置です。(左)創り出した電気を貯めておくリチウムイオン蓄電池
街全体でエネルギーがどのくらい作られてどのくらい消費されているかを見える化した「SMA×ECOクラウド」のポータル画面

周囲の環境と共生する街づくり

「晴美台は高台にあり、風が吹き込みやすいんです。住宅を配置する際には、風が吹く方向を考慮して、街の中を風が通り抜けるようにしています。効率よく土地を使うには、本来は街の外周に住宅を配置したほうがいいのですが、風の通りを良くするためにあえて道路を作っている部分もあります」(濱崎さん)

住宅そのものにも風を活かす工夫を取り入れています。「ウィンド・キャッチ・ウィンドウ」という、外開きの窓を表側に開くことで、建物の壁沿いを流れる風を屋内に取り込めるようになっています。

街は、隣接する陶器山に自生する木や野鳥が好きな実のなる木を植栽しています。もともとあった小学校に植えられていた木を移植したり、校章や日時計のモニュメントも街並みに取り入れたりしています。

また、電線地中化によって、美しい景観と災害に強い街にする取り組みも行われています。

電柱の地下化や植栽によって、周囲の環境と調和しつつ、独自の景観にもこだわった街の設計になっています

住民自治による持続可能な街の運営

「スマ・エコタウン晴美台は、住民の自治によって運営される部分が多くなっています。その中心になっているのが、集会所です。住民が自由に使えるスペースであると同時に、災害時にはトイレや煮炊きするかまどになるベンチや、食料や水などの備蓄場所にもなっています。街の貯水池上にパーゴラを設置して、その上にも太陽光パネルを備えてあり、そこで作られた電気は集会所の蓄電池に貯められます。災害時には、各住宅だけでなく、集会所の電気を活用することもできます」(濱崎さん)

街の自治は、団地管理組合法人(住民)と堺市(行政)、大和ハウス工業が相互関係を築いて行われています。

組合は街の共有部分を整備することで、行政からそれらを住民で活用する許可を得ています。大和ハウス工業は街のプランを設計し、必要であればそれに対する条例や協定の調整も行いました。住民に土地と建物を提供したあとは、エネルギー活用データの活用の了承を得て、それを堺市や国に報告することで補助金を得たり、自社の研究に活かしています。

組合は、設立されてから30年間の長期修繕計画も立ててあり、継続的に街を守り続けていく仕組みも持っています。3者が上手に連携することで、それぞれにメリットのある形で街が運営されています。

エネルギーを自給するというだけでなく、将来的な街の持続という側面にも取り組んだ「スマ・エコタウン晴美台」。今後の住環境におけるひとつのモデルケースとなりうる成功例ではないでしょうか。

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この記事の執筆者
小林謙一 ライター

企画制作プロデューサー・編集者・ライター

企画の立案から実制作のプロデュース、紙媒体の編集、ライティングなどを主に活動。「面白くて役に立つ」をモットーに制作を手がける。趣味は、酒とコーヒーとロードバイク。

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