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2018年、12月1日。日本のテレビ放送界が新たな放送、4K・8K放送がスタートしました。現行放送のハイビジョン映像に比べ、4Kが4倍、8Kに至っては16倍も緻密な映像は魅力的です。そんな新高精細映像テレビはもちろん、番組製作現場も大きく変わってきました。その現場を潜入して参りました!

BSテレ東にある4K放送用のコントロールルーム

人員は必要最小限。ミニマムで制作

「ここが4K放送のマスター映像の製作現場です」

そう案内されたのは東京都港区六本木にあるBSテレ東内の一室。同局では12月1日から4K放送を開始しました。

この部屋では、前面にモニターが4台あり、画質のチェックなどが行われるという。その一室は地上波や従来のBSテレ東の制作室に隣接されていました。大広間の地上波などの部屋に比べると非常に手狭で人数も少ない……というより、オペレーターは1人だけ?

「ここに常駐するスタッフは1人だけ。設備は、導入する期日があったので必要最小限。放送が開始されるまで、実際にテレビでどのように映るのかも市販のテレビを使ってチェックしていました」

4K放送がスタートしても当初は基本的にハイビジョン映像を4K映像にアップコンバート(ハイビジョン映像の画素数を4K映像に見合う画素数に増加させる加工)することが多く、その映像のチェックなどを行う

またスタジオは地上波の番組制作と共有しており、4K対応が進められています。カメラはソニー製4Kカメラが導入され、照明はLED化が進められていました。

「おはスタ」の収録が行われるスタジオも4K対応が進む。スタジオの上部にあるライトはLED化されている
コントロールルームでは制作された映像を通常のハイビジョン(右)と4Kのモニター(左)を並べ、チェックしているのだという

ショッピング専門チャンネルではロボット化

QVCジャパンの現場

場所は変わって千葉県千葉市の幕張にあるQVCジャパン。24時間365日、ライブ配信を行うテレビ通販専門局。生放送にこだわっているのは、売り出し中の商品の動向がリアルに伝わること。この番組で取り上げられると、爆発的に売れることが多いという。この番組も12月1日より4K放送がスタートした。24時間放送をする4K事業者は、現時点でQVCだけ。

「リアルな4K映像ならその場に現物があるかのような映像表現ができる」と、担当者はその効果を力説していました。

海浜幕張駅近くにあるQVCの社屋。この中で24時間制作し、生放送されている。

今まさに撮影中というスタジオに入ると、そこには9台の4Kカメラが、放送で売り出し中の商品を捉えていました。ところが、本来いるはずのカメラマンの姿はそこにはありません。

「すべてロボットです。カメラは別室から、アングルやピントなど遠隔操作します」と担当者。

スタジオにはカメラがズラリ。このカメラが無人でアングルを変えたりピントを変えたりする
カメラの操作は別のフロアにあるコントロールルームから。カメラを操作するのは1人

ハイビジョンと4K放送を同時に制作するメリットとデメリット

 12月1日から4K放送をスタートした民放局の多くは、これまでのハイビジョンと4K映像を同時に制作する方針です。それは設備や人員への投資を抑えたいという考えから。4K放送にはそれなりの設備投資が不可欠。しかしチャンネルが増えるから、映像がより高精細になるから、広告収入が増えるわけではない、という現状からすれば放送局側にもいろいろな思いがあります。

また各局が共に大きな課題としてあげるのが、4Kとハイビジョン映像の「バランス」です。4K映像とハイビジョン映像の違いは単に画素数の違いだけではありません。各局の担当者が口を揃えていうのが8K・4K映像規格で採用されているHDRのバランスでした。

HDRとはHigh Dynamic Rangeの略で、従来の映像に比べ明るさの幅が格段に広くなります。例えば、暗がりのシーンでは従来のハイビジョン映像では黒く潰れてしまった映像も、HDR映像なら黒つぶれせず、滑らかな階調で楽しめます。

製作現場では4KのHDRを見越して画質調整を行いますが、そこに偏ってしまうとハイビジョン映像で黒つぶれが起こってしまうなどです。反対にハイビジョン映像で見やすい映像にすると、4K映像では白トビしてしまう可能性があるのです。この解決に各局の技術者が解決策を探り経験を積んでいます。

放送機器も進化。家庭向けで培った技術でサポートも

 映像表現の品位が格段に上がることで、撮影のテクニックより高度なものが求められます。人間の視覚に近い、リアルな映像に近くなれば、例えば色の鮮明さやピントもより緻密さが求められます。先のHDRもそのひとつ。そしてカメラには正確な顔検証によるオートフォーカス(AF)技術が導入されています。

顔検出AF機能は、民生向けの機器であれば今や当たり前の機能です。しかし、業務用はこれまでカメラマンの技術により正確な映像を捉えてきました。ところが4Kではほんのわずかなズレも、たちまち4K・8K対応モニターに表れ、不快な映像になりかねません。そこでプロ仕様のカメラを多く供給するソニーでは、顔検出AF機能を搭載した4Kカメラを製品化。より高精度な映像を撮影するためにプロのカメラマンをサポートしようとしています。決してプロの腕が落ちたのではありません。それほど繊細なコントロールが求められるようになるわけです。

ソニーが発売し既に多くの放送局や映像制作会社に納品されている4Kカメラ『PXW-Z280』
被写体の顔を検出。その被写体が動いても、ピントを正確に合わせ続ける

4K・8K放送の特性を熟知した番組作り

もちろん4K・8Kの魅力を最大限に引き出し、今後は魅力的なコンテンツが増えてきそうです。

NHKでは放送開始の12月1日に4Kと世界初の8K放送をBSでスタートさせました。

紀行やドキュメント、映画、音楽が目白押しです。BS8Kでは「2001年宇宙の旅」「マイ・フェア・レディ」をはじめとする映画の名作をずらりとラインナップ。これらは70㎜フィルムで撮影された作品です。

「70㎜フィルムによる映像の情報量は、8Kに匹敵する」とのこと。8K放送なら、この作品本来が持つ映像に魅力を存分に引き出せるという。

「2001年宇宙の旅」(C)Turner Entertainment Company

制作50周年を迎えた「2001年宇宙の旅」は経年劣化も進んでいたため、NHKが作品を管理するワーナー・ブラザースに提案。70㎜フィルム作品としては世界で初めて8K映像化を実現させた。80㎜フィルムを上映できるシアターも減る今、今後は8K化で70㎜作品を保存する動きが出てきそうです。

また4Kでは黒澤明、溝口健二、小津安二郎の三大巨匠の作品群や、特撮番組のパイオニア、「ウルトラQ」も放映されています。これらの多くはモノクロ作品ですが、

「モノクロでも4K映像なら、これまでになかった繊細な映像表現で楽しめます」

とのこと。映画以外で4K・8K共に重要視しているのがスポーツコンテンツ。ほぼ毎日、スポーツに関わる放送が予定されています。

ただし、4Kと8Kでは撮影の方法が若干異なるといいます。ハイビジョンよりも4K、4Kよりも8Kのほうがより引いた(広角)映像が増えるといいます。映像が緻密故にヨリの(アップ)映像よりも引いた映像の方が見やすい。サッカーなどは1人の選手を追うのではなく、より多くのは範囲を捉えます。しかし、それでも各選手が鮮明に写っている。これで選手それぞれの動きも分かる。これは人間の視覚により近い感覚と言えそうです。

「スポーツはやはりキラーコンテンツ。東京オリンピックに向けて、撮影技術も磨いていきたい」

やはり、4Kテレビが欲しくなりました!

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この記事の執筆者
中澤雄二 ライター

メデイア制作会社U・Zealand(ユー・ヂーランド)代表。「好奇心を持つことがライターの価値」と、言い訳のような信念をモットーに、雑誌、ウエブにて、取材、執筆活動中。

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