住宅ローンの団体信用生命保険に「三大疾病保障」はつける? つけない?

住宅ローンの返済中、契約者に万一のことがあると残債が一括返済される「団体信用生命保険(団信)」。団信には、死亡した場合だけでなく、特定の条件を満たせば生前でも返済の必要がなくなる「三大疾病保障」等の特約が付いたタイプもあります。三大疾病保障などの特約は後から付加できないので、住宅ローン申し込みの前に、比較検討しておきましょう。

団体信用生命保険とは

 住宅ローン契約の際に併せて契約する「団体信用生命保険(団信)」とは、住宅ローンの返済中に死亡や高度障害などの万一のことがあった場合に、保険金によって住宅ローン残高が返済される保険のことをいいます。多くの民間金融機関の住宅ローンは、契約と同時に団信の加入が必須となっており、その保険料は金融機関が負担します。

住宅金融支援機構と民間金融機関の提携ローンである【フラット35】は元々、住宅ローンと別に「機構団信」を契約し、毎年1回1年分の団信特約料を支払う仕組みでしたが、2018年4月から、機構団信の特約料が金利に含まれた【フラット35】の取り扱いを開始。原則として、別途団信特約料を支払う必要がなくなりました。

「三大疾病保障特約付き」などであれば、生前に返済不要となる場合がある

 基本的な団信の保険金が支払われるのは「死亡・高度障害」の場合ですが、多くの金融機関では、条件を満たせば一定期間住宅ローン返済額が保障されたり、残債が一括返済されたりする、疾病保障特約付きのタイプも利用できます(下記表1参照)。

特約の種類や保険金支払いの条件は、金融機関や商品によって異なりますが、保険金支払いの条件は、「がん・三大疾病・8大疾病等、特定の病気にかかり一定条件を満たすこと」とされており、基本的な団信の金利に0.3%前後の金利が上乗せされます。特約分の保険料が不要の商品や、特約保険料を住宅ローンの毎月返済額とは別に支払うタイプの商品もあります。

注意したいのは、対象となる病気であっても例外事項があり、また対象となる病気になっても一定の条件を満たさなければ、保険支払いの対象にはならないことです。

たとえば、「がん」の場合、上皮内がんは保険金の支払い対象外となるケースや、「急性心筋梗塞」の場合、倒れた直後ではなく、60日以上働けない状態が続いた後、保険金の支払い対象となるといった具合です。

8大疾病など、対象となる病気の範囲が広い場合は、保険金支払いの条件はより厳しくなります。商品によって、対象となる病気や条件、支払内容は異なるので、よく確認しておきましょう。

なお、このような疾病保障の特約が付いた団信は、通常の団信よりも加入できる年齢の範囲が狭く、また、年齢に応じて保障内容が異なる場合もあります。住宅ローンを利用する時点の年齢に応じて、加入条件や保障内容を確かめましょう。

【表1:特約付団体信用生命保険の例】(がん保障付/三大疾病保障付/8大疾病保障付)

がん保障付(楽天銀行「ガン保障特約付団信」)
対象となる疾病・条件の概要(※1) 保障内容 保険料
この特約の責任開始日(融資実行日を含めて90日を経過した日の翌日)以後この特約の保険期間中に悪性新生物(がん)に生まれて初めて罹患し、医師によって病理組織学的所見(生検)により診断確定されたとき。 「ガン診断給付金」が支払われ、住宅ローン残高0円に 融資の適用金利+年0.3%

 

三大疾病保障付(【フラット35】新三大疾病付機構団信)の場合
対象となる疾病・条件の概要(※1) 保障内容 保険料
三大疾病保障 がん(所定のがんにかかり、医師により診断確定されたとき)

・三大疾病が原因で一定要件に該当した場合に保険金が支払われ、以後の返済が不要になる

・左記の条件を満たす要介護状態となった場合に保険金が支払われ、以後の返済が不要になる

新機構団信付き【フラット35】の金利+0.24%
急性心筋梗塞(急性心筋梗塞を発病し、次のいずれかの状態に該当したとき)
・初診日からその日を含めて60日以上、労働の制限を必要とする状態が継続したと医師によって診断されたとき
・所定の手術を受けたとき
脳卒中(脳卒中を発病し、次のいずれかの状態に該当したとき)
・初診日からその日を含めて60日以上、まひや運動失調、言語障害などの多角的な神経学的後遺症が継続したと医師によって診断されたとき
・所定の手術を受けたとき
介護保障 ・保障開始日以後の傷害・または疾病を原因として、公的介護保険制度による要介護2から要介護5までのいずれかに該当していると認定されたとき
・保障開始日以後の傷害または疾病を原因として、所定の要介護状態に該当し、該当した日を含めて180日以上要介護状態が継続したことが医師によって診断確定されたとき

 

8大疾病保障付(三井住友銀行8大疾病保障付住宅ローン:借入時年齢20歳以上46歳未満の場合※2)
対象となる疾病・条件の概要(※1) 保障内容 保険料
がん(上皮内がんを除く) がん急性心筋梗塞・脳卒中の場合、左記の条件を満たした場合に、住宅ローン残高は0円に 通常の住宅ローン金利+0.3%
急性心筋梗塞・脳卒中(所定の状態が60日以上継続したと診断されたら)
高血圧症・糖尿病・慢性腎不全・肝硬変・慢性膵炎(【1】就業不能状態となったら【2】就業不能状態が13ヶ月を超えて継続したら) 高血圧症・糖尿病・慢性腎不全・肝硬変・慢性膵炎の場合、【1】約定返済相当額最長12ヶ月間保障、【2】住宅ローン残高0円

※1 保障開始日以降の発症が条件。保険の対象となる疾病や条件の詳細は、商品ごとに確認を
※2 46歳以上56歳未満は、保障内容が異なります

疾病保障特約付き住宅ローンは、通常の金利+0.3%前後

 表1でも見たように、三大疾病特約付きなどの団信に加入していると、仕事を続けられないような病気にかかり、収入が思ったように得られなくなった場合にも安心です。通常の住宅ローン金利に比べ、だいたい0.3%前後の金利増となります。新三大疾病特約付機構団信は、通常の【フラット35】の金利に0.24%増となり、借入額2,000万円で試算してみると、毎月返済額が3,000円増え、総返済額に99万円の差がつきます(下記表2参照)。

【表2:特約保険料を上乗せした場合の総返済額の差】

条件:借入金額2,000万円、返済期間35年、元利均等返済、毎月返済のみ、金利1.37%、上乗せ金利0.24%の場合

金利 毎月返済額 総返済額 総返済額の差
1.37% 6万円 2,519万円 -
1.61%(1.37%+0.24%) 6.3万円 2,618万円 +99万円

疾病保障の特約付きの団信を選ぶかどうかの一つのポイントは、この返済額の差にあります。万一の際に得られる保障に対して、この場合は月額3,000円の返済額増が妥当なものと思えるかどうか。また、返済の初期に保険金の支払い対象となれば、返済不要となる金額(住宅ローン残高)は1,000万円単位となるかもしれませんが、返済期間の終期に保険金支払い対象となった場合には、返済不要となる金額は100万円単位や10万円単位となる可能性があります。
金利上乗せで保険料を支払うタイプの特約付きの団信は、特約部分だけを中途解約することができません。返済期間が終盤に近づき、保障の必要性を感じなくなっても解約することはできないので、返済終了まで保険料を負担し続けることに納得できるかどうか、考えてみましょう。

返済が終わると、保障もなくなる

団信はあくまで住宅ローンの返済をカバーする保険であり、生活を保障するものではなく、住宅ローンの返済期間や借り入れ額に連動した保障です。

そのため、疾病保障付団信の保障は、住宅ローンの返済が終わればなくなります。高齢期になるほど、病気の心配は高くなりますが、60代ぐらいには多くの人が住宅ローン返済を終えるので、団信による疾病保障は受けられなくなります。繰り上げ返済をして早期に完済すればなおさら、団信の補償期間も短くなります。がん・急性心筋梗塞・脳卒中などの病気の治療費などが心配なら、疾病保障付きの団信よりも、一般の生命保険や医療保険に加入し、必要な時期に保障が受けられるような保険期間を設定したほうが良いでしょう。

なお、病気等による収入低下によってローン返済が難しくなることが心配な場合には、死亡・高度障害を保険金支払いの対象とする基本的な団信に加入した上で、別途生命保険会社の就業不能保険や損保会社の所得補償保険を利用する方法もあります。
就業不能保険や収入保障保険は、病気やけが等で収入が得られなくなった場合に備えて加入する保険です。その保険金は住宅ローン返済に限らず、生活費や教育資金等に充てることができ、保険期間も住宅ローン返済期間に関わりなく、必要に応じて設定することができます。疾病保障付きの団信の利用を検討する際には、就業不能保険等についても試算し、条件なども比較してみるとよいでしょう。

このように、三大疾病保障等の疾病保障特約が付いた団信は、万一のことが起こった場合には安心ですが、保険金の支払いにはさまざまな条件があり、保険料も上乗せとなります。住宅ローンを返済中に病気等で返済が難しくなってしまう「万一」に備え、疾病保障付きの団信で手厚くカバーしたほうがよいのか、預金や収入保障保険等でカバーできないのか、金利0.3%前後の保険料増となっても納得できるのかを検討しましょう。さらに、各金融機関で利用できる団信の保障内容も確認して、疾病保障が付いた団信にするのか、通常の団信にするのかを考えてみてください。

(最終更新日:2019.10.05)
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