この記事は、約5分で読めます

2018年4月から、これまで自由診療で高額だった支援ロボットを使用する手術が一挙に保険適用となりました。手振れ補正や術野(手術を行っている医師の視野)の拡大が可能なロボットの支援により、いままでより安全に高精度な手術がこれまでに比べ割安で受けられるようになったのです。画像診断や病理診断も、ビッグデータを元にAIが人間以上に迅速かつ正確にできるようになる可能性も出てきました。このロボット支援手術は私たちの暮らしをどのように支えるのでしょうか。そんな医療の現在と未来について解説します。

従来2件だった保険適用とされてきたロボット支援手術が、12件以上追加に

ロボット支援手術を可能にした『ダヴィンチ サージカルシステム』を開発したのは、アメリカの医療機器メーカー、インテュイディブサージカル社です。手術用ロボットは、1991年に勃発した湾岸戦争をきっかけに、戦場における遠隔外科治療システムとして研究開発が進められたのだといいます。そして、2000年にアメリカからイタリアに輸出されたことを皮切りに、2014年には3,000台以上が全世界の病院に導入されました。2018年3月末時点で、世界で4528台が導入されています。

日本で初めてダヴィンチを導入したのは金沢医科大学病院。2005年にダヴィンチスタンダードを導入し、心臓手術を開始。その後、主に前立腺がんの治療に活用してきました。その後、国内の病院も続々と導入を進め、保険適用となる前立腺がんや腎がんの分野で活用が広がりました。

そして、この春、2018年度から一挙に保険適用の範囲が拡大されたのです。

新たに保険適用となったロボット支援手術は、胃がん、食道がん、直腸がん、肺がん、縦隔腫瘍、膀胱がん、子宮がんなどのほか、弁形成術といった心臓手術も含む12件。すでに保険適用されている前立腺がんや腎がんと合わせると、全14件の術式が保険適用となったことになります。

『ダヴィンチ サージカルシステム Xi』モデルは3種のコンポーネントから成立する。左から、鉗子や内視鏡が装備されている「ペイシェントカート」、術野を映し出す「ビジョンカート」、医師が実際に操作を行う「サージカルコンソール」。

300台以上。日本国内で活躍する手術支援ロボット『ダヴィンチ』の台数

ロボット支援手術を積極的に導入する病院として2014年に設立された、ニューハート・ワタナベ国際病院の石川紀彦先生に、日本のロボット支援手術の現状についてお話を伺いました。

「どこの病院が何台ダヴィンチを導入しているかということまでは把握できませんが、現在国内には300台以上が導入されています。大学や公立などの、大病院であればほぼ導入しているのではないかと思います。また、ロボット手術と聞くと、‟ロボットが全自動で正確な手術をしてくれる“というイメージを持たれがちですが、実際には、‟高性能な道具を使い、より高度な内視鏡手術が可能になった”ということが正確なところです。従って、だれが行っても高精度の手術ができるわけではなく、熟練した医師でなければ精度の高い手術はできないという点においては一般的な内視鏡手術となんら変わりはありません」(ニューハート・ワタナベ国際病院 石川紀彦先生)

つまり、ロボット支援手術とは遠隔操作型内視鏡システムのことなのです。

ロボットが持つ『自由な手』と言われる鉗子の直径は8mm。さらに極細の鉗子もある。

従来の内視鏡手術に比べロボット支援手術の優れている点は、鉗子の種類の豊富さと手振れ防止機能、術野の大幅な拡大と高解像度の3D画像を見ながらの手術が可能になったことにあります。鉗子の種類は50種類以上、手振れ防止機能はデジタルカメラに使われている機能を応用したもので、これにより、安定した術野と鉗子操作が可能になったわけです。

保険適用により高額医療費制度の活用も可能に!

また、保険適用により診療費が大幅に軽減されるのも多くの人にとって朗報です。

「例えば、心臓弁膜症の治療の場合、自由診療だと費用は当院の場合、約350万円もしていましたが、保険適用となれば患者さんの負担額は治療費の3〜1割程度。さらに、高額医療費制度も活用できますから、負担は大幅に軽減されることになります」(ニューハート・ワタナベ国際病院 石川紀彦先生)

というように、これまで数百万円もする治療費を払わないと受けることができなかった手術を、数万円から数十万円程度の負担で受けられるようになったのです。

ニューハート・ワタナベ国際病院で行われている手術の様子。

AIの活用で30分かかっていた病理診断が3分に短縮!?

ロボット支援手術だけでなく、AIの医療分野における活用も期待されています。例えば、島津製作所では、統計学の手法をがん診断に応用し病理診断を2分に短縮する研究を行っています。これは『迅速病理診断支援システム』と言われ、これまで病理医が手術中に切除した切片を顕微鏡で観察し、がん細胞の有無を診断すると約30分要していたものを、ビッグデータを活用し学習したAIにより約3分で判別できるようにするというもの。2020年頃を目処に製品化を目指しています。ただし、このシステムが一般的に広く活用されるようになるにはまだ高いハードルもあります。

「例えば自動車の自動運転の場合、事故が起きたときの責任は自動車メーカーにあるのか、運転していた人にあるのか、法整備が進まない限り実用化は難しいですよね。同じように、画像診断や病理診断も医療である以上、AIに責任を取らせるわけには行きません。最終的には医師の承認が必要になるわけですが、その辺りの法整備が医療の進歩に追い付いていないというのが現状です」(ニューハート・ワタナベ国際病院 石川紀彦先生)

いずれにしても、医療技術の進歩は私たちの想像を超え、猛烈なスピードで進化しているようです。AIや手術支援ロボットの導入により、診断や手術時間が短縮されれば、これまでより格段に快適な治療環境が整うはず。今後、法の整備のスピードアップを期待したいものです。

関連記事

住宅ローンをご検討中の方

この記事の執筆者
なかむらかつら ライター

雪国出身、立教大学卒。フリーライターとして雑貨やコスメ、家電、飲食店やショップ、インタビュー記事など子ども向けから大人向けまで雑誌や、書籍などで幅広く執筆している。

おすすめ記事