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情緒ある佇まいや木のぬくもり、個性が魅力の“町家”。最近は、レトロな町家を活用したカフェやレストラン、宿泊施設が増えています。さらに、町家を購入し、リノベーションすることで快適な住まいとして活用している人もいます。今回は、現在創業63年。注文・建売住宅の取り扱いを経て2000年頃から京町家の取り扱いをスタートし、リノベーションして加工した住宅をメインに、シェアハウスや宿泊施設、コワーキングスペースなどへの活用も多数手がけてきた株式会社八清さんに、最近の町家事情を伺いました。

伝統家屋、町家の現状。貴重な建物が失われつつある?

平成のバブル期以降、京町家が次々と高層ビルやマンション、駐車場に姿を変えてきました。その中には、現在の日本の建築基準法では再建築が困難な建物も多く含まれており、貴重な建築物が次々と姿を消しています。

これまで残存する京町家の軒数調査は行政により行われ、平成20~21年に行われた「京町家まちづくり調査」では、市域に現存する京町家の数は47,735軒と報告されていました。しかし、平成28年度の追跡調査によると、7年間で5,602軒が滅失したことが判明。しかも、残存する40,146軒(※調査不能とされる1,987軒をのぞく)のうち、5,834軒が空き家であるといいます。近年ではホテルなど宿泊施設の建設ラッシュが続き、京都の町並みは急速に変化しています。

京町家条例の制定により、官民一体となって京町家の保全・継承を目指す

ここ数年の間に、市内に存在していた「商家」と呼ばれる文化財クラスの大型京町家が次々と取り壊されてしまいました。そんな町並みの変化を危惧した京都市は、平成29年に「京都市京町家の保全及び継承に関する条例」 (京町家条例)を制定しました。京都市が指定する一定規模あるいは重点地区にある京町家について、取り壊しも含めた処分を検討する際に、早い段階で市に届け出をだすことで、取り壊さず継承する道を官民が一体となって模索し、保全・継承につなげていくことを目的とした制度です。

今回お話を伺う株式会社八清さんは、京都市と連携して動く事業団体に加盟。活用方法の提案や、活用希望者とのマッチングに協力し、流通を促す役割を担っているそうです。京都の貴重な財産である京町家を守り、京都の町並みを未来へ継承するために、まずは町家の特徴を学びましょう。

リノベーションを行った町家の特徴と住み心地は?

町家の面影を残しながら、現在のライフスタイルに寄り添い、家具とマッチする空間をデザイン

町家と聞くと、間口が狭くて奥行が長い「うなぎの寝床」と言われる細長い家屋が思い浮かびます。最近は町家をリノベーションすることで宿泊施設や住居として活用する人が増えていますが、京町家を現在のライフスタイルに合わせてリノベーションした物件を販売する八清さんは、どのようなリノベーションを行っているのでしょうか?

八清さん:
八清の町家リノベーション物件の多くは、外観は本来の町家の意匠を再現し、室内は元の間取りや町家の良さを残しつつ、現代のライフスタイルに合うよう造りこんでいます。キッチンや浴室などの水廻りを新調することはもちろん、細かく間仕切りされた部屋をつなげて広さのあるLDKにしたり、限られた面積の中で屋根裏を利用してロフトや収納としてスペースを確保したりしています。場合によっては、駐車スペースを設けるなど現実的な使い勝手も考慮しています。
また、厳しい冬の寒さ対策を求めるお客さまが多いため、床暖房あるいは薪ストーブなども取り入れています。そして京町家につきものなのが「庭」。室内から四季の移ろいを感じられる坪庭は、小さくてもできるだけ設けるよう工夫しています。

時には、あえて土間を残す、もしくは元の状態に戻して、本来の京町家の形を再現するような企画物件もあります。土間空間で創作活動ができるモノづくりの工房のような使い方を好む、芸術肌のお客さまも増えているからです。

町家で暮らすと、どんなメリットがあるの?

もし、実際に京町家で暮らすことになったら、通常の戸建て住宅に住む場合とどのような違いがあるのでしょうか? メリットを伺いました。

<季節を感じる暮らし>

家の中から坪庭を楽しむ暮らしは、京町家暮らしの醍醐味

八清さん:
京町家のような昔ながらの伝統建築物は木や土壁、畳の井草などの自然素材で造られるため、建物そのものが呼吸するかのように、気候に応じて熱や湿気を調節します。そして、小さくても坪庭の役割は大きく、光と風の通り道であり、夏は涼を感じたり、雨風の音や虫の声を耳にしたり、冬は容赦なく入り込む隙間風を感じて、暑さや寒さを実感しながら日々を過ごします。

年間を通じて快適な温度調整が可能な、密閉された住宅や鉄筋コンクリート造のマンションとは大きく異なる点です。

<フレキシブルな間取り>

襖や建具を撤去すれば、京町家でもゆったりとした広さのLDKを設けることができる

八清さん:
間口が狭く奥に深い京町家は、襖で仕切られた細かい部屋割りがされていますが、機能性に優れています。表(通り)に面している「ミセの間」は店や商談のスペース。次に続くのが家族だんらんの場となる「ダイドコ」「ザシキ」。つまり奥へ入るほどプライベートな意味合いが強くなります。昔は祭事や冠婚葬祭は自宅で行われ、その都度、部屋を区切る襖や建具あるいは表の格子を取り外し、奥の座敷まで一続きに部屋を開放して利用していました。

用途によって、襖や建具で部屋を仕切ったり、一続きにしたり、フレキシブルな利用が叶うというわけです。

<経年美>

力強い丸太梁を望む京町家。経年変化による使い込まれた風合いは、新築にない魅力だ

八清さん:
八清が扱う京町家は、新しくても築70年です。柱、梁などの構造体はもとより、建具、家具、その他使えるものは使い残せるものは残す、というポリシーで取り組んでいます。古いもの=使えない・売れない、と考えるのではなく、アンティークやヴィンテージという言葉が表すように、古ければ古いほど高まる「経年美」に良さを見出しています。例えば、古い柱や床・階段の傷、また古い木製建具の使い込まれた味わい、経年による色の変化など。そのような建物の趣きを愉しめるのが町家の醍醐味です。

建築基準法制定以前に建てられた建築物は、一旦取り壊してしまうと、現行の建築基準法において伝統的な工法で同じように建築することは困難です。 また、意匠性においても、1000年に渡り継承されてきた歴史的な文化を今に伝える貴重な建物です。こういった意味でも京町家の希少性はとても高いものと私たちは捉えています。

<近所付き合い>

町家で暮らすということは、ご近所さんとの付き合いも愉しむということ

八清さん:
他府県の方から見ると、京都のご近所付き合いは面倒なのでは…? という印象を持たれる場合が多いようです。しかし、細かい町割りのなかでの自治組織は、日常生活の中でコミュニティが形成され、ご近所の助け合い、防災・防犯などを意識するきっかけや地域への貢献にもつながります。

関西のなかでも特に京都では、8月下旬頃にお地蔵様を供養する子どものための催し「地蔵盆」が盛んに行なわれます。これは子どもの健やかな成長を祈願する子どものための行事です。町内にあるお地蔵様を祠から出してお祀りし、お坊さんを招いてお経をあげてもらいます。そして、直径2~3メートルほどある巨大な数珠を円になって子供たちの手で回していく「数珠回し」が行われます。そのあとは、皆で食事をしたり、子どもにお菓子やおもちゃの入ったプレゼントを渡したり、ビンゴやスイカ割りなどゲームを楽しみます。現在では、子どもの数が減り、規模の縮小や開催できない自治会もあるようですが、子どもにとっては待ち遠しい年中行事です。

また、京都には元学区といって旧学区(明治時代、日本で最初に創設された番組小学校を元とする地域の単位。現在は少子化による統廃合が進み、現行の学区割とは異なる)を単位とした独特の地域自治の仕組みがあり、体育祭、各種スポーツ大会、学童の見守り隊、夏祭り、年中行事など自治活動が行われています。

家で暮らすデメリットとは?

町家での暮らしには数々のメリットがありますが、デメリットもあります。具体的に、町家で暮らす問題点と解決方法を教えて貰いました。

<耐震性>

八清さん:
建物によりまちまちですが、「空き家である期間が長い」「メンテナンスがほとんどされていない」というような場合、躯体構造は劣化・腐食などがかなり激しく、解体後はほぼスケルトンのような状況になる建物も、しばしば見られます。そのような中で私たちは、単にリフォームするだけでなく伝統構法の「揺れ、粘って持ちこたえる」構造特性を活かした改修工事を行います。足元は足固めや玉石補強を、古い柱や梁・壁は、使えるものは残しながら根継ぎや補強柱を添えるなどして構造補強を行います。多少間取りに制限がかかってしまいますが、全体の加重を考え、要所に袖壁を設けながら必要な柱を残し、また、間口方向に面格子の壁をもうけるなど、耐力・耐震性を考慮しています。

<気密性・断熱性・防音性>

八清さん:
気密性、断熱性、防音性においては新築と比較すると当然劣ります。古い京町家は、表から奥まで貫く通り庭の連続した土間空間や、建てつけの悪い建具の間から隙間風が入り込みます。隣家と壁を共有する長屋と言われる連棟の建物では防音性能は求めにくいものがあります。八清の改修では、それらの問題点を解消する工夫を行います。壁には断熱材や防音シートなど用い、開口部は二重サッシにするなど、少しでも快適にお住まいいただけることを考えています。

<害獣の発生>

八清さん:
京町家で起こる問題のひとつが、ネズミや虫の発生です。古い京町家が建つエリアは住宅密集地であり、床下や屋根裏は生き物の住みかとなっていることが多くあります。特に連棟長屋の場合、壁一枚を共有しているだけなので、ネズミやイタチが壁や屋根裏の隙間・穴から家々を渡り歩いていることもあります。そのため、八清の改修では、躯体構造の補強時にできるだけ生き物の侵入口となるような箇所を塞ぎ、白アリ対策として防蟻処理を実施。完成後には敷地内に白アリ探知機を埋め込んで侵入の可能性を予測します。また、八清の改修物件にお住まいになってから発生するものに対しては、メンテナンス員が忌避剤を散布するなどして追い出し、侵入を防ぎます。

<築年月不詳>

八清さん:
京町家の多くは戦前に建てられているため、戦後昭和25年に制定された建築基準法の条件を満たしていない建物が多く、銀行で融資を受ける際、建物の評価は低く見られることがあります。

<再建築不可>

八清さん:
建築基準法上の道路に接していない「再建築不可」と呼ばれる土地建物は、現状の建物を取り壊してしまうと、接道条件が変わらない限り、建物を建てることができません。そのため、金融機関において担保としての評価はゼロないしは低く見られます。そのため、融資など住宅ローンを受けて購入することが困難、つまり買い替えがしにくいという難点があります。

<路地奥の立地>

八清さん:
家々が密集した路地の建物の場合、建築基準法上の道路に接道しておらず再建築不可であるケースが多く見られます。また改修工事において、建築資材の運びこみや工程によっては一度に作業できないことも多く、近隣への配慮も必要なため、工事が長期化する場合もあります。

<住宅ローンの借り入れが難しい?>

八清さん:
「築年月不詳」「再建築不可」「路地奥の立地」といった特徴から、京町家は住宅ローンの借り入れが難しいように感じられると思います。しかし、現在の京都の地銀や地元信用金庫では、京町家(伝統木造建築物)に対する評価が見直されています。お客さまの個々の状況にもよりますが、京都市の調査のもと発行される「京町家カルテ」「京町家プロフィール」を取得できると、再建築不可の建物であっても融資が可能になるケースもあります。

町家暮らしに向いている人はどんな人?

リノベーションにより、町家らしい内装を一新。全く異なるデザインテイストにすることもできる

最後に、町家での暮らしに向いているのはどんな人なのか、八清さんに伺いました。

八清さん:
例えば、夏暑く、冬寒いという状況を受け入れ、季節の移り変わりを楽しめる人は向いているのではないでしょうか? 夏になると、襖や障子を外して御簾や葭戸など夏用の建具に替え、直射日光が注ぐと簾を垂らし、庭に水を打つことに涼感を呼ぶといった暮らし。京町家には、五感で快適に過ごすための仕掛けがあちこちにあります。

また、古いことにはデメリットもたくさんありますが、「経年美」、つまりアンティークやヴィンテージのような年月を経た味わいを好む方も向いていると言えます。総じて言えるのは、新しいことや快適であることが全てではありません。多少の不便さがあっても、それを楽しんだり前向きに捉えたりできる方が、町家暮らしに向いているのではないでしょうか。

四季に寄り添いながら趣ある建物で暮らす「町家暮らし」。決して万人向けの選択肢ではありませんが、興味を持った方は一度、検討してみてはいかがでしょうか?

取材協力:八清

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この記事の筆者
斎藤若菜 住宅ライター

ラジオパーソナリティを経てフリーライターに。住宅・インテリア・不動産分野を中心として、介護・グルメ・トラベルなどのジャンルでも執筆。リフォームや注文住宅関連の住宅情報誌をはじめ、雑誌、書籍、新聞、インターネットなどのさまざまな媒体で取材・執筆を手掛けている。ARUHIマガジンでは、「住宅購入者ストーリー」などを担当中。

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